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泥に咲く蓮
第2章 蕾、色づき
代わり映えしない学校生活は退屈なまま過ぎ、三者面談が明後日に控えていた。
まっすぐ帰る気になれず、学校近くの本屋へ寄り道する。

目当ての本はなかったが、雑誌コーナーに差し掛かると有名女性雑誌の表紙の『愛と、SEX』の見出しが飛びこんできた。
グラビアでは誰もが知っているような人気モデルの男女が絡み合い、男性モデルだけがこちらへカメラ目線だ。
黒目がちな瞳がふと亮二を思い出させて、梨花は慌てて目を逸らした。

何も買わず本屋を出たところで、後ろから誰かに肩を叩かれた。

「三崎じゃん。何の本見てたの?」

驚いて飛びあがってしまう。振り返ると明るい髪色の、梨花と同じ学校の制服姿の男子がニコニコして立っていた。

「えっと…誰?」
「あ、ひでぇ。同じクラスなのに」

まじまじとみると、確かに見覚えがある。
グレーの瞳はカラーコンタクトだろうか。茶色い髪、外国人っぽい顔つき。

「芝だよシバ。席、斜め後ろにいるし。
あんた、窓際だからって外ばっか見てるよな」
やたらと人懐こいその彼は、たじろぐ梨花を見下ろしてニカッと笑った。

「電車乗る?駅まで一緒に行こう」
有無を言わさない強引さに、梨花はなんとなく頷いてしまった。

どこ住んでんの、と訊ねる彼に最寄りの駅名を言うと
「うちと反対方向じゃん」と自販機で買ったジュースを呷った。

「シバくん…も何か本、探してたの?」
並んで歩きながら、慣れない状況に落ち着かず少し声がうわずってしまう。

「うんにゃ、全然。
オレ、門出てからずっと三崎の後ろにいたんだ。で、本屋に入っていくからさあ」

そんなに前から見られていたのか…。

「話しかけるチャンスきたー!って思った。あんた学校で近寄りがたいし」
「…」
「なあ、友達とかはいねーの?いらねーの?」
「…小、中学まではいたよ。お一人様生活はこの学校にきてからかな」

ああなるほど、とうなずいて、シバはちらっと梨花をみた。

「じゃあさ、これからオレら友達な」
「はい?」
「よっしゃ決まり。やったぜ」
強引にまとめて、子犬みたいにニコニコしている。
なんなのこの人、変わってる…

「駅、着いたな。
オレあっちのホームだから。じゃあまた明日なー」
梨花の返事も待たずに、シバは足早に改札を通って、向かいのホームへ行ってしまった。

呆気にとられたが、悪い気はしなかった。



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