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泥に咲く蓮
第3章 色づき、膨らみ
「あ、イワシ」
鮮魚コーナーで、亮二の動きが止まった。

「ほんとだ、美味しそう。今、旬だもんね。
じゃあ今日は鰯で何か作りますか」

新鮮そうな、綺麗な鰯を数匹選り、バスケットに入れる。
亮二の視線が泳いだ気がした。

「…?」
「や、なんでもない」
「…もしかして苦手だった?」
「いや、全然」
図星だ。きっと、間違いない。

「急いで決めなくても旬の魚は他にもあるから、ゆっくりみてみましょうか」
「いいや、鰯がいい」
バスケットから鰯を返そうとした梨花を亮二が遮った。

「…やめるなら今のうちだよ?」
「いいや、今日は鰯がいいんだ」

バレてないとでも思っているのだろうか。

いつもと違って、梨花に意地悪な気分が芽生えた。
さっきまでからかっていたお返しだ。

「じゃあ、今日は鰯で美味しいもの作るね」
「…うん、楽しみにしてる…」

他にも材料を幾つか見繕い、歩いてマンションまで並んで帰る。
公園を抜け、街灯でライトアップされたマンションが見えてきた頃、隣室801号室の夫婦と鉢合わせた。

「あら、こんばんは。今日は鳥居さんもご一緒なのね」
頭頂部で髪を大きく団子に結わえた奥さんが話かけてきた。

「こんばんは、これからお二人でお買い物ですか?」
梨花がにこやかに挨拶する。
亮二も笑顔で会釈した。

「そうなの、今日は彼、早く帰ってきてくれたから。
もうお料理も押し付けちゃおうかなって」
明るい奧さんの隣で、眼鏡をかけた優しそうな旦那も軽く頭を下げた。

「鳥居さんご夫婦は、夕飯は何を?」

旦那の言葉に、一瞬固まった。

かああっと頬が熱くなる。

「やだ、リカちゃんはまだ高校生よ」
奥さんが旦那の肘をつついて窘める。
「お二人は親戚でいらっしゃるのよ、ねえ?ごめんなさいね」
「いえ…」
「じゃあそろそろ、失礼します。リカちゃん、またね」
奥さんが笑って手を振って、旦那と腕を組み、梨花と亮二が来た道へ去っていった。

「…」
「…」
エレベーターの中でも、まだほんのり熱を感じて梨花は顔をあげる事が出来なかった。

部屋に入るなり、無心で鰯のトマト煮、茄子と鶏肉の炒め物、夏野菜のスープとサラダを調理した。





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