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泥に咲く蓮
第3章 色づき、膨らみ

「……わたしからも話したい事があるの」
「うん、どうした?」
梨花は直視できず、俯いた。
「リョウくんは今、付き合ってる人はいないの?
おかあさん以外に好きな人とか」
今まで、そんなこと訊いた事がない。
怖くて訊けなかった。
「いないよ。…どうしてそんな事を」
「わたし、リョウくんの荷物になるのは嫌」
俯いたまま、顔をあげる事ができない。
「わたしがいるせいで、わたしに…おかあさんに縛られて、リョウくんの人生がままならないのはすごく嫌なの。
あれからもう、五年も経ってる」
「……」
「おかあさんが居なくなって、最初は本当に寂しかった。
心細かったし、不安で怖くて仕方なかった。
でも、佳奈さんも…何より、リョウくんが居てくれたから、すぐに乗り越えられた。
ほんとよ。
感謝してもしきれない、ありがとう」
「………」
「あの頃はリョウくんの年齢や立場なんて気にした事がなかったけど、今ならちゃんと理解できる。
わたしは、リョウくんに幸せになってほしい」
声が震える。でも言わずにはいられない。
途切れ途切れの拙い梨花の言葉を、亮二は黙って聞いている。
「リョウくんの数年を潰しちゃってごめんなさい。
このままじゃ恋人だって、結婚だって、きっとちゃんとできない。
おかあさんやわたしに、もう縛られないでほしい。
こんな形じゃなくて、もっと早く言えてればよかったね」
言いながら、涙が溢れてくる。
本心だった。
ずっと言えなかったが、ここで少し気持ちが軽くなった気がした。
「わたし、卒業したらこの家を出るね」
顔をあげた瞬間、向かいに座っていたはずの亮二の姿はなく、ふわっと柔らかい柔軟剤の匂いに包まれた。
座ったまま抱き締められたと気づくまで少し時間がかかった。
「…リカちゃん」
耳元で、亮二の優しい声がする。
「そんなふうに思っていてくれてたのか。
何も知らないことだらけだな」
抱き締めながら亮二の右手が梨花の髪を梳き、頭を撫でる。
「俺の事は気にするな。ちゃんと今も、幸せだから」
片膝を付いて向き直り、梨花の瞳を覗きこむ。
「初めて会った時から君はあまりお喋りじゃないし、多分俺もそうだ。
今までずっと多感な年頃だろうからと距離の近づけ方がわからなかった。
佳奈さんに頼り過ぎた」
「…」
「君はこんなに優しい子だったんだな」
「うん、どうした?」
梨花は直視できず、俯いた。
「リョウくんは今、付き合ってる人はいないの?
おかあさん以外に好きな人とか」
今まで、そんなこと訊いた事がない。
怖くて訊けなかった。
「いないよ。…どうしてそんな事を」
「わたし、リョウくんの荷物になるのは嫌」
俯いたまま、顔をあげる事ができない。
「わたしがいるせいで、わたしに…おかあさんに縛られて、リョウくんの人生がままならないのはすごく嫌なの。
あれからもう、五年も経ってる」
「……」
「おかあさんが居なくなって、最初は本当に寂しかった。
心細かったし、不安で怖くて仕方なかった。
でも、佳奈さんも…何より、リョウくんが居てくれたから、すぐに乗り越えられた。
ほんとよ。
感謝してもしきれない、ありがとう」
「………」
「あの頃はリョウくんの年齢や立場なんて気にした事がなかったけど、今ならちゃんと理解できる。
わたしは、リョウくんに幸せになってほしい」
声が震える。でも言わずにはいられない。
途切れ途切れの拙い梨花の言葉を、亮二は黙って聞いている。
「リョウくんの数年を潰しちゃってごめんなさい。
このままじゃ恋人だって、結婚だって、きっとちゃんとできない。
おかあさんやわたしに、もう縛られないでほしい。
こんな形じゃなくて、もっと早く言えてればよかったね」
言いながら、涙が溢れてくる。
本心だった。
ずっと言えなかったが、ここで少し気持ちが軽くなった気がした。
「わたし、卒業したらこの家を出るね」
顔をあげた瞬間、向かいに座っていたはずの亮二の姿はなく、ふわっと柔らかい柔軟剤の匂いに包まれた。
座ったまま抱き締められたと気づくまで少し時間がかかった。
「…リカちゃん」
耳元で、亮二の優しい声がする。
「そんなふうに思っていてくれてたのか。
何も知らないことだらけだな」
抱き締めながら亮二の右手が梨花の髪を梳き、頭を撫でる。
「俺の事は気にするな。ちゃんと今も、幸せだから」
片膝を付いて向き直り、梨花の瞳を覗きこむ。
「初めて会った時から君はあまりお喋りじゃないし、多分俺もそうだ。
今までずっと多感な年頃だろうからと距離の近づけ方がわからなかった。
佳奈さんに頼り過ぎた」
「…」
「君はこんなに優しい子だったんだな」

