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泥に咲く蓮
第4章 膨らみ、開花
梨花は持ってきた大きいトートバッグから、タオルを数枚とり出した。

「これで体を拭いてね。クローゼット、開けていい?着替えを出すわ」
「うん」

クローゼットの中に五段ほどのファッションケースがあり、インナーや薄手のものが入っていた。
通気性と肌触りが良さそうなシャツを見繕う。

「これでいいか…な…」
振り返ると、彼はすでに服を脱いでいた。
全体的に筋肉質で、滑らかに絞まっている。
服を着ていると分からなかったが、想像していたよりずっと男性らしいスタイルだった。

「…背中、拭くわ」
「…うん、ありがとう」
用意したシャツをベッドに置き、タオルを手に取った。
うっすらと背骨の窪みが、白熱灯の黄色っぽい明かりに浮き立たされている。
前に抱きしめられた時に嗅いだ、あの甘いような亮二自身の匂いが辺りに濃く漂っていて、梨花はクラクラした。

(男の人の背中ってこんなに大きいんだ…)

「…ありがとう」

ハッと我にかえる。
梨花が置いたシャツを着て、亮二がこちらに向き直った。

「…薬も持ってきたから、飲んでね」
「…うん」
残りの買ってきた飲み物を全部取り出し、薬を渡した。
「何か食べるもの作っておくね」
「…すまない、ほんとに助かる」

亮二をベッドに寝かせると、梨花は一階のキッチンへ降りた。

(びっくりした…)

まさか亮二の裸上半身を目の当たりにするとは思っていなかった。

お粥と、生姜を使ったスープをたっぷり作る。

梨花は体が丈夫だが、それでも2、3度大きく体調を崩した時、佳奈が来てくれた。

亮二の場合、日本だけでなく海外にいる時に調子が悪い時もあっただろう。
もしかして、ずっと一人だったのだろうか。

(もっと頼ってくれてもいいのに…)

想像しただけで胸がぎゅっとなった。

家から持ってきたおかずを冷蔵庫に入れ、もう一度二階へあがり亮二の枕元に付き添う。
薬が効いているのか、ぐっすりと眠っているようだ。

まじまじと寝顔を覗きこむ。
閉じられた睫毛が長く影を作っている。
膝をついて乗りだし、つい右手を亮二の頬に添わせてしまった。

(…これくらい、いいよね…)

ずっとこうして眺めていたい。
時間が止まってしまえばいい…
梨花は暫く、亮二を見つめていた。

それから、どれくらい時間が経っただろうか。
少しウトウトして、目が覚めた。





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