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泥に咲く蓮
第4章 膨らみ、開花
「そういうお姉ちゃんはどうなの?」

ニヤニヤと愛美が頬杖をついている。

「なんかちょっと綺麗になってない?彼氏できたんでしょ」
「いないよ。…何も変わってない」
「えっ何それ、お姉ちゃんまだ片想いしてんの?」
大きめの声でガバッと起き上がった愛美に、
シーッ!と梨花が窘めた。

「えー…二年以上経っても全く進展ナシ?」
こっくり頷く。
まさか相手は亮二だとは言えないが、愛美にだけは気になる人がいると打ち明けていた。

「でもさあ、お相手、なんで気づかないんだろうね?」
「?」
「お姉ちゃんて、あんまりお喋りじゃないけど、顔で何考えてるかすぐバレるよ」
「ウソでしょ…」
愛美が頬杖でニヤッと笑う。

「相手の人、お姉ちゃんの気持ち、もうわかってるんじゃないかなぁ」

シバに亮二への想いが見破られたことを思い出す。
自分がそんなにわかりやすいタイプだとは思ってもみなかった。

まさか…
そんな、まさかね。

「もうだいぶ遅くなったし、寝よっか」
「うん、寝よう。おやすみー」

おやすみ、と返して布団にくるまる。
梨花は疑心暗鬼を抑えるのに必死になっていた。



体調が戻った、と亮二から連絡がきたのは、それから三日後の朝だった。

「リカちゃん、今日は何か予定はある?」
いつもと変わらないトーンに、梨花は少し安心した。

ないと答えると、あの晩持っていったタオルや、作り置きのおかずが入ったタッパーを返しに来るらしい。
お礼に夜はちょっといいとこで食事しよう、とも。
「わかった」と返事して、電話を切った。

眠る亮二にキスをしたあの夜から、梨花は、自分の気持ちに蓋をしようと思っていた。

どれだけ亮二を想っていても、許されるはずがないのは最初から理解していたつもりだった。

いけないと解っていても梨花の欲情は増し、もっともっと、と渇望する。

だが近づくたびに、触れるたびに、あがいても叶わないと打ちのめされる現実があまりにつらい。

もう、疲れてしまった。

今日で片想いは最後にしよう、と思う。
今ならまだ忘れられる、引き返せるだろう。

ごく薄くメイクを施し、緩く髪を巻く。
夕方過ぎにマンションに来た亮二は、すっかり元気になったようだった。

学校のある駅を越えて三つ目の駅の繁華街で、梨花は美味しいイタリアンをお腹いっぱいごちそうになった。



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