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泥に咲く蓮
第4章 膨らみ、開花
亮二の選んだ店はとても雰囲気がよく、梨花はすっかり気に入ってしまった。
華美を抑えてシンプルなのに、計算されたように上品な佇まい。
壁に掛かっている数々の絵が、一際空間を引き締めているようだ。
「…ねえ、ここの絵ってまさか…」
「…バレたか」
亮二が少し気恥ずかしそうに笑った。
「そう、俺のなんだ。ここのオーナーが気に入ってくれてさ」
照れているのか手元のワイングラスをぐるぐるまわしている。
亮二がお酒を飲む姿を見たのは、これが初めてだった。
珍しいと思っていたが、なるほど、と腑に落ちた。
「絵って海外では売れるんだけど、日本ではなかなか難しいんだよ。
オーナーはイタリアの人で、向こうで偶然知り合ってさ」
ワイングラスを口に運びながら、亮二が続ける。
「日本でイタリアンの店をやってるって、そこに置きたいんだって言ってくれてさ。
場所もまさかこんなに近いとは思わなかった」
「わたしには絵心はないけど、とても素敵だと思うわ。すごく居心地がいいもん」
「そうか?…ありがとう」
「特に、あの川の風景画が素敵だと思う」
梨花は、反対側の奥の壁中央に飾られた、一番大きな絵を指した。
亮二もみて、ああ、と頷く。
「あれ、俺が育った田舎の風景なんだ。
前に水着が流されちゃった話、しただろ?」
「ああ、あの時の」
梨花も思い出した。
「こんなに綺麗なところだったんだね」
「…あの時、翔子さんもいたんだ」
亮二がグラスに視線を落として微笑んだ。
「…え?」
「翔子さんと俺は、幼馴染みだったんだよ」
梨花は驚いて、言葉が出なかった。
「…そんな話、聞いたことがなかった。
だっておかあさん、リョウくんの事、何も話してくれたことなかった」
「そうだろうなって、初めてリカちゃんに会った時すぐにわかったよ」
亮二が困ったような顔をしてワインを嘗めている。
「翔子さんは昔から、元気に笑いながらみんな秘密にするんだ」
亮二は、ポツポツと翔子との話をしてくれた。
翔子達が育った町は、雪が多く、山も海も綺麗な所だった。
亮二は、両親が不慮の事故で亡くなったため、物心がついた時には児童養護施設にいたらしい。
「俺は特につらいとは思わなかったな。
色んな境遇で親と一緒に暮らせない子供はたくさんいる。
珍しいことではないんだよ」
華美を抑えてシンプルなのに、計算されたように上品な佇まい。
壁に掛かっている数々の絵が、一際空間を引き締めているようだ。
「…ねえ、ここの絵ってまさか…」
「…バレたか」
亮二が少し気恥ずかしそうに笑った。
「そう、俺のなんだ。ここのオーナーが気に入ってくれてさ」
照れているのか手元のワイングラスをぐるぐるまわしている。
亮二がお酒を飲む姿を見たのは、これが初めてだった。
珍しいと思っていたが、なるほど、と腑に落ちた。
「絵って海外では売れるんだけど、日本ではなかなか難しいんだよ。
オーナーはイタリアの人で、向こうで偶然知り合ってさ」
ワイングラスを口に運びながら、亮二が続ける。
「日本でイタリアンの店をやってるって、そこに置きたいんだって言ってくれてさ。
場所もまさかこんなに近いとは思わなかった」
「わたしには絵心はないけど、とても素敵だと思うわ。すごく居心地がいいもん」
「そうか?…ありがとう」
「特に、あの川の風景画が素敵だと思う」
梨花は、反対側の奥の壁中央に飾られた、一番大きな絵を指した。
亮二もみて、ああ、と頷く。
「あれ、俺が育った田舎の風景なんだ。
前に水着が流されちゃった話、しただろ?」
「ああ、あの時の」
梨花も思い出した。
「こんなに綺麗なところだったんだね」
「…あの時、翔子さんもいたんだ」
亮二がグラスに視線を落として微笑んだ。
「…え?」
「翔子さんと俺は、幼馴染みだったんだよ」
梨花は驚いて、言葉が出なかった。
「…そんな話、聞いたことがなかった。
だっておかあさん、リョウくんの事、何も話してくれたことなかった」
「そうだろうなって、初めてリカちゃんに会った時すぐにわかったよ」
亮二が困ったような顔をしてワインを嘗めている。
「翔子さんは昔から、元気に笑いながらみんな秘密にするんだ」
亮二は、ポツポツと翔子との話をしてくれた。
翔子達が育った町は、雪が多く、山も海も綺麗な所だった。
亮二は、両親が不慮の事故で亡くなったため、物心がついた時には児童養護施設にいたらしい。
「俺は特につらいとは思わなかったな。
色んな境遇で親と一緒に暮らせない子供はたくさんいる。
珍しいことではないんだよ」