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泥に咲く蓮
第1章 夏の蕾
「はあ…」
冷えた体を浴槽に沈めると、自然と溜め息が漏れた。
ブクブクブク…と肩よりも深く、鼻までお湯に潜る。

亮二がいる。なんとなく心がざわついて落ち着かない。

梨花の母、三崎翔子は未婚のシングルマザーだった。
父親は知らない。どんな人なのか、どんな経緯があって独りなのか、何も聞かされた事がない。
何度となく父の事を訊ねた事があったが、満足な答えが返ってきた試しがなかった。

看護師だった翔子はあまり料理が得意ではなかったが、気丈で優しかった。
二十二才で梨花を産み、慎ましくも幸せな二人暮らし。
足りないものは何もなかった。

梨花が中学にあがる頃、いつも元気な翔子が倒れた。末期ガンだった。
若さが仇となり、翔子は三十四才で人生に幕を下ろした。

梨花を授かった時点で、翔子は親族と絶縁状態だった。
葬儀では翔子の同僚以外に、梨花が見知った顔はなかった。
集った親族達は誰もが専ら梨花の預け先の話をしていた。

絶望していた梨花の前に、この時初めて鳥居亮二が現れた。

母に恋人がいたとは寝耳に水だった。

亮二は狼狽える親族達の前で、梨花をひきとり、保護者になると宣言した。

一方の梨花は、翔子以外の人間との生活など考えられなかった。
未だに現れない父親の存在も、全部どうでもよかった。
母の親族も母の恋人も、わたしの家族じゃない。
わたしに家族はもう、誰もいない…。

結局、梨花は鳥居亮二を選んだ。そして、今に至る。


入浴をすませ、オーバーサイズのTシャツとショートパンツを身につける。
制服のシャツと靴下が入っていたランドリーボックスが空になっていて、スカートだけがハンガーに吊られていた。
洗濯機が動いている。亮二が気遣ってくれたらしい。

ざらっ…と音をたててまた、梨花の心がざわつく。
亮二は初めて対面したあの日から、ずっとずっと優しいのだ。

リビングのドアを開けると、玉葱やバターが焼ける匂いがした。

「上がったか。今日はオムライスでいいか?」
木ベラを片手に亮二がキッチンから顔をのぞかせる。

「美味しそうな匂い、お腹すいちゃった」
「もうすぐ出来上がるから、座って待ってな」
「じゃあ、テーブル片付けておくね」
「おう、頼んだ」



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