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泥に咲く蓮
第4章 膨らみ、開花
「わかってるって、とりあえずメシ食おうぜ」

駅前のファミレスで、向かい合って座った。
それぞれ注文し、ふと見るとシバが頬杖をついて梨花をみていた。

「…何?」
「ゴメンって。怒ってるんだろ、この前の事」
「…怒らない人がいる?」

屋上でのキスの話だろう。
しかし、梨花に他人を責める資格なんてない。
亮二に同じような事をしでかしてしまったのだ。
しかも相手は熱で寝込んでいるというのに…

「でも、もういい。なかった事にする」
「これでもちゃんと反省したんだ。悪かったよ」

ドリンクバーで注いできたコーラな氷をストローで突つきながら、シバが視線を落とした。

「番号も、実は教えてくれると思ってなかった。
もうあんな事しないからさ」
「…本当に?」
「本当に。三崎の好きな人とも知り合ったし無理強いできねぇよ」

同罪の弱味だろうか。
ここまで言われると梨花もシバを頑なに避ける気はしなくなった。

「わかった。この話はおしまい」
「おー!よかったー」

梨花も烏龍茶をストローで飲みながら、改めてシバをみた。

サラサラの明るい髪が、ガラスの壁から差し込む日光に反射してキラキラしている。
伏せた睫毛は長く、切れ長のグレーの瞳を縁取ってとても綺麗だと思った。

「三崎、進路どうすんの?」
「まだ決まってない」
「へぇ、意外だな。進学しねぇの?」
「それも決まってない」
「…へぇ」

梨花の前にドリアのセット、シバの前にハンバーグのセットがきた。

「いただきます」
「…」
食べ始めた梨花をみて、シバが目を細めた。

「これ、ノートのお礼な」
「えっ悪いわ、そんなつもりじゃなかったの」
「いいから、奢られとけって」
「…ありがとう」

義理堅い人なんだな、と梨花は思った。

携帯の番号を訊かれた時に断らなかったのは、その前に亮二と翔子の話をしていたからに他なかった。
あの時は自棄に近い感覚だった。

すぐに後悔したが、今、こうして話ができた。
案外これはこれでよかったのかもしれないな、と考えていた。

その後、二人がファミレスを出たのは、とっぷり日が落ちてからだった。
話してみれば、驚くほど馬が合ったのだ。

好きな音楽、映画、その他にもいろいろあったが共通点がたくさんあった。

遅くなったし送るよ、というシバの申し出を受ける事にした。






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