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桃衣の天使
第4章 真白な未来
 余程の事がない限り約束を反故には出来ない。
 「意地悪。」
 拗ねる愛花を宥めながら中学生が帰宅するにはやや遅い20時の門限五分前に玄関前で別れた。
 スーパーで晩飯の買い出しをして帰った自宅には案の定明かりが灯ってない。年明け頃から母さんに親しい男が出来て帰りは22時を回る事が多くなった。それでも午前様、朝帰りをしないだけましだ。仕事を早朝シフトに変えたのも彼と一緒にいる時間を多く作る為だろう。俺が母さんの顔を見るのは就寝前の二時間程だが特に蟠りはない。母さんもシングルマザー歴史15年だ。女としての自分の幸せを求めてもいいのだ。まあ、相手がヤクザだとかプー太郎、既婚者とかだったら話しは別だが夏休みになったら紹介するというのでそれを待つことにしている。
 自分で言うのも恥ずかしいがマザコンの気があった俺があっさり男の存在を許せたのも愛花のお陰だろう。小恥ずかしい言葉だが愛している人と肉親を秤にかけて肉親の扱いが軽くなるのは仕方がない事だ。俺だって心を占めてる率は愛花、母さん、麻友美の順だ。母さんの中で俺の位置が彼氏より低くても仕方がない。それで拗ねる程お子様ではない。
 白米、御御御付、焼き魚と買ってきたサラダの簡単な夕食二人前を作って自分の分だけ食べて部屋に入り宿題に着手する。意外に思うかもしれないが俺はこれでも学年30位内の常連だ。まあトップ3から落ちた事の無い愛花には及ばないが何とか愛花の志望校を受験する事を担任教師として麻友美も後押ししてくれている。
 宿題を終わらせ予習を始めた頃玄関で物音がする。帰ってきたなと時計を見ると23時前だ。いつもより遅かったなと玄関に迎えに出ると見知らぬ男に肩を借りて何とか立ってる母さんがいた。珍しく泥酔しているようだ。
 「こ、こんばんわ。あの、僕は。」
 「佐久間秀太さんですよね。」
 見知らぬと言ったがこの男の顔と名前だけは知っている。母さんに写真で紹介された彼氏だ。
 「母がお世話になってます。」
 「い、いや。」
 「重たいでしょ?酔っ払いはその辺に転がしといてお茶でもどうですか?車でないならビールか日本酒もありますよ。」
 思いかけない対応だったのだろう。オロオロする彼氏から母さんを受け取るとお姫様抱っこする。
 「おもてなしなしで帰したと知られたら俺が母に叱られるんでちょっと待ってて下さい。」


 
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