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BeLoved.
第21章 【世界はそれを暴君と呼ぶんだぜ】
「だから未結は、いつもの野暮ったい格好が一番なの。似合うしね。それ以外着ないで。流星もそれでいいよな」
「ん?あー、可愛い可愛い」
目線は携帯のまま。相槌は適当。
流星さま、やっぱり聞いてなかったのね。そ…それにしても野暮ったいってひどい…
「…とにかく言う通りにしてね」
「っしゃ!これだ!黒!ミニ!!」
静かに一喝した麗さまと歓喜の声をあげた流星さま。
それはほぼ同時だった。
「流星うるせぇ!…未結、いいね。わかったら」
「でもっ…、わたしだって…!」
彼の思いは伝わった。ありがたいとも思う。…でもそこまで制限されなきゃいけない?麗さまの言葉を遮って、つい反論の言葉が口をついて出てしまった。──馬鹿だった。
「未結ちゃん」
瞬時に声のトーンが変わった。
空気も。一気に張りつめた。
「…麗!」
流星さまにも感じ取れたようだった。携帯を閉じると同時に窘めるように呼び掛ける。
麗さまはそれに応えるように視線を一瞬だけ返し、直後にわたしをまっすぐ見据えた。その視線は、背筋が凍りつくような冷たさ。
こんな瞳を向けられたのは初めてだった。
「聞いてね。俺が優しく言ってるうちに」
口調は決して乱暴ではない。とても静かだ。…でも纏っているのは、意見も拒否も許さない威圧感。
衣服云々の話じゃない。
わたしの主人は、自分。
わたしの絶対は、自分。
抗うことは許さない。
彼はそう言いたいのだ。
普段の優しさに、愛されていることに慣れすぎて、いつの間にか失念していた。
これがわたしのもう一人のご主人さま
麗さまの、本質なのだ。
「返事して」
「っは、…は…ぃ…っ、ごめんなさい…っ」
改めて思い知らされたわたしが逆らえるはずがない。目も逸らせない。震える声でやっとそれだけ言い、ゆっくり頷いた。
…カチ、と携帯が開く音が響く。
同時に張り詰めた空気も解れた。
麗さまは「約束だよ」と告げるとと立ち上がり、煙草を手にしてベランダに出ていく。
わたしは無言でその背を見送るしかなかった。