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BeLoved.
第22章 【むかしのはなし】
ぽつりと漏らされた呟き。
そちらに目をやると、彼は椅子の肘掛けに腕をのせて頬杖をついていた。視線はわたしの方を向いてはいない。
「7歳になったばっかり。俺その頃、担任の野郎に毎日体触られてたの。だから木の枝でそいつの股関叩きのめした。それが最初」
「え……」
「そいつの後にも、変な野郎いっぱい居たよ。付きまとって来た奴、泳いだ後の水着パクった奴、極めつけは精液入ったゴム投げつけてきた奴。髪にも顔にもかかって死ぬ程気持ち悪かった。全員、血を見てもらったよ」
「……え」
「中2の時は3年生の男3人に輪姦されそうになった。奴ら動画撮る準備までしてたよ。『美少年レイプ生配信だ』とかほざいて。ちなみに道路にほん投げたのはこの時のアタマ。後の2人はお望み通り動画撮ってやった。内容言わなくていいよね?あ、ちなみに誰も死んでないから」
「………」
彼が話しているのは、決して武勇伝ではない。何故なら淡々とした口調とは裏腹に彼の表情は険しくて…辛そうだった。
「…これ、ほんの一部。他にも色んな目に遭ってきた。ひどい?やりすぎ?じゃあ俺は無抵抗でいなきゃならなかったのかな。どんなに怖くても不快でも?全世界に生き恥晒しても?」
「…れ…」
無意識に漏れた、呼びかけのようなもの。
そんなもの遮るように、彼は上体を屈め、目線をわたしに合わせた。
「勘違いしないでね、未結。俺は身を守る為にやってきたの」
長いまつげに縁取られた切れ長の二重。
赤墨色の瞳。彼がその中心に写すのは、
紛れもなく、わたし。
彼がわたしを見るときの目は、とても優しい。
でも今は違う。
冷たくて暗くて…きっと彼が、自分に危害を加えようとする人達を見る時と同じ…敵意に満ちた眼差しだった。
「お、親御さんには…相談なさらなかったんですかっ…?ご兄姉だって…」
「『あなたが可愛いから』って、笑われておしまいだったよ。そんな親だったからね。『自力で打破しろ』って教えてくれたのが、兄と姉」
「り、流星さまはっ…?」
「…流星に何ができた?」
返す言葉がなかった。