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BeLoved.
第24章 【彼が一番食べたかったもの】
「何で誰も電話出ねーんだよ!」
その怒号で目が覚めた。
ここ…どこ?麗さまの部屋にいたはずなのに、景色が全く違う。
「…流星うるせぇ!未結が寝てんだよ黙れ」
「じゃー電話出ろよな」
「俺の用事はその前の電話で済んでるもん」
「俺の用事は済んでねーんだよヘタ麗!!」
気だるい体を起こしたすぐ側で、いつものやりとりが聞こえる。…よくよく見たらここはリビング。わたしはソファに寝かされていた。
乱れた服は綺麗に直されているし、さっぱりしている肌からは花の香りもする。シートで払拭されたのだろうか…。
「…あ、未結ごめんね。うるさかったね」
まだ覚めきらない頭でぼーっとしていると、背後…台所の方から麗さまの声がした。そして彼の言葉でわたしは一気に現実に引き戻されることになる。
「でもよく寝てたね。もう6時だよ」
「えっ?!ろ、6時?!」
慌てて時計を見上げ青ざめる。…麗さまの言う通りだった。外も薄暗い。
部屋での…その、行為の後からと考えても…6時間以上も寝ていたの?!しかし、更に魂が抜けそうになるのはこの後だった。
「皿は洗ったし、夕飯は素麺にしたからね」
「………。えええっ!!?」
よくよく見れば彼が立っているのはコンロの位置。右手には菜箸。眼前には湯気をたてる鍋。あろうことか夕食の仕度までさせていたのだ。
慌てて駆け寄ろうとしたわたしを彼はその場で制止し、もうすぐ出来るからそこで待っていてと命じた。
カウンターの向こう側では彼らのやり取りが聞こえる。
「おい流星、天婦羅買ってきたよな」
「あー、これな。あとたい焼きもな。未結にだろ?」
「…何で20個も買ってくんだよボンクラ」
「だからそれ聞きたくて電話したんだろーが」
わたしはたい焼きが大好物。それは知っている。しかし好きな"中身"をド忘れしてしまった。通じない電話にも面倒臭くなった流星さまは、全種類を数個ずつ買ってきてくれたそうだ。それにしても20個…
「なー未結」
「…あ…、おかえりなさいませ、流星さま」
いつの間にか流星さまだけがリビングに姿を表していた。ここから見上げた彼の表情は…疲れているのだろう、いつもの明るさは感じられなかった。
彼はわたしの隣に腰を下ろすと、髪に触れながらぽつりと問いかけてきた。
「おまえ今、幸せか?」