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BeLoved.
第27章 【カレハミエルヒト。】
「はい。未結はこれね」
「え?…あ…」
乱れた前髪を直していると…つい先程とは打って変わった穏やかな声。そして差し出されたものは…たい焼き。それと、ペットボトル入りのお茶だった。
「あ、ありがとうございます…!」
大好物にパッと顔が明るくなる。険しかった麗さまの顔も、柔らかくなっていた。
「それ食べて待ってて。一服してくるから。何かあったらすぐ知らせてね」
「あ、俺も行くわ」
…流星さまは本当に切り替えが早い。さっさと車から降り、もう蹴られたことも忘れてしまったかのような普段通りの調子で、お財布を開いている。
「今細かいのねーわ。諭吉でいい?」
「…いいよ、要らねぇよ。…あー、一瞬でもテメーごときに罪悪感持つなんてな。どうかしてたとしか思えねぇ…」
「じゃーこの煙草でチャラな」
項垂れる麗さまに対し楽しそうに言いながら、流星さまは笑顔でわたしを見た。『な?』と唇だけ動かし呟いて。
「未結ー、何かあったら叫べー。すぐ来るから」
「目ぇ離さないけどね」
封を開けた煙草を手に、二人は連れ立ってお店の前に設置された灰皿のもとへ。
「………あ」
何かしら会話を交わしているらしい彼ら。声はよく聞こえないけど、姿はちゃんと見える。
二人からもわたしの姿はしっかり見えているみたい。時折こちらに視線をくれるし、手も振ってくれる。だから麗さまはここに車を停めたんだ…。単に空いてたからじゃなかったんだ。
甘いたい焼きを頬張りながら改めて思う。
『俺は俺』どんな自分でも、自分。どこに居てもいつになっても、それが変わることはない。
流星さまに限らず、麗さまもだし…もちろんわたしもそうだ。
『自分を持つこと』それはつまり、強さ。口先だけじゃなく、そう在り続けるための努力も心構えも、彼らは怠らない。
自分を信じることができる強さがあるからこそ、彼らは優しい。
…彼らのそういうところが、わたしは大好き。惹かれるんだ。
いろんな意味で疲れることもいろんな意味で怖いことも多いけど(あ、つい本音が)…。
でもそれもまた彼らだ。
…おばあちゃん、大丈夫。わたしは幸せ。これは間違いないよ。
こんなに大切にしてもらってる。わたしはそれに応える為にこれからもお仕事に励むからね。どうか安心して下さい。
心の中でそう祈ったのだった。