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BeLoved.
第35章 【hey my friend.】

「…………わたし、残ります。…気分が悪くて」

途端に彼の表情が険しくなった。反射的に顔を逸らす。鋭い瞳に怖じ気づいたのと…嘘が見破られない様に。

「どうして?…まさか、飲んだ?」
「…ちがいます。ごめんなさい、行けません」
「…わかった。鍵かけてくけど、俺が戻るまで絶対に開けないでね」

麗さまはそう言い付けると紫を抱き上げ車から降ろし、器用にドアを閉めた。

直後響いたドアロックの音。足早に去っていくその背をただ見送った。やがて彼らの姿はアパートの入口をくぐり、中へと消える。それ以上はわたしの位置からは見えない。

エレベーターがない建物だから、彼は紫を抱いたまま階段を上らなければならない。そして紫の部屋は階段から一番遠い。

密着してる時間が結構長い。…よね。

〰〰ゆ、紫は歩けないんだもん、仕方ない!
……でも…なんだろう。…すごく、嫌な気分。



「…?」

気をまぎらわすために外を向いた。すると視線の先、垣根に何か白い布のようなものが引っ掛かっているのが見えた。目を凝らしてよく見てみると…ハンカチだった。見覚えがあるレースの縁取り。

「紫のだ…」

拾わなきゃ。その気持ちに支配され、言い付けなんて頭からすっかり抜けてしまったわたしは自席のドアを開け外に飛び出した。

ハンカチを手に取る。幸いそんなに汚れても破れてもいない。お洗濯して返そう。そう思い畳み直していた…はずだった。




「──わたしのだよ」

無意識にもれた呟き。それで我に帰った。

ゆっくり解いた手の中には、握り締められしわくちゃになったハンカチ。…何をしてるの?…何を言ってるの?自分がしたことに、自分が一番驚いていた。
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