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BeLoved.
第36章 【暴走】
本当に血の気が引く時はこんな音がするんだ。
そんな錯覚に陥る程全身の隅々が冷えきった。
わたしはそんなこと言っていない。
『俺と麗、どっちがいい』
あの問いに答えてはいない。
流星さまは嘘をつかない。違う、つけない。
その彼が初めてついた嘘がこれだ。…なにもこんな時に…!反論したくても声が出せない。
「ふーん」
しかし麗さまは……予想に反し冷静なまま。普段通りのつまらなそうな口調で、そう返しただけだった。
そのまま向き直り、廊下へ出ていこうと彼が一歩踏み出した……直後だった。
「きゃああっ?!」
固く握られた右手が、真横の鏡にとてつもない速さと強さで打ち付けられたのだ。
直撃を受けた鏡は鋭い音と共に割れ、その破片がバラバラと下の水盤や洗面台の周りに落ちていく。
壁に残った部分には、蜘蛛の巣状に幾重にも走った細いヒビ。その中心には赤い跡。……血だ!
「れっ…麗さま血…!怪我…!」
「危ねーって、未結!」
気が動転し、転げそうになりながら駆け寄ろうとしたところを流星さまに腕を引かれ制止された。その間に麗さまは出て行ってしまう。
その『危ない』に込められた、三つの意味。
一つは今転びそうになったこと。二つ目は洗面台のみならず、床にも落ちているであろう破片を踏みつけること。
そして…本当なら拳を打ち付けられていたのは流星さまだったはず。でもそれはわたしがいたからされなかった。
代わりにそのやり場のない衝動をぶつけられたのは、鏡。
でも普段の麗さまだったら物に当たるなんてしない。
抑えきれない感情に支配されている証拠。
三つ目は…そう、今の彼に関わることだ。