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BeLoved.
第36章 【暴走】
『──あーやっと出た。俺だけど』
聞こえてきたのは、もちろん流星さまの声。
でもその声はいつもより暗く、早口だった。
『──悪ぃ、俺しばらく帰れねーわ』
「え?」
『…ちょっと面倒くせーことになった。戸締まりちゃんとしろよ。じゃーな』
それだけ告げられると一方的に切られた。
不通を知らせる機械音だけが、繰り返し耳に届く。わたしは無言で携帯を閉じた。
何の根拠も無いのに一つの考えが頭に浮かぶ。…麗さま何かしたんだ!
「って言いたげだね、未結」
「!!」
突然背後から声がかかり反射的に振り返る。しかし彼の目線は食事に向けられたままだ。
「えっ…えぇっ?な、なんのことですかっ?」
わざと明るく振る舞い、台所の隅の方へ駆け込んだ。その何もかも見透かしたような声から逃げるために。
わたしは電話の相手を言っていない。
でも麗さまは知っている。流星さまからで、彼が今どんな状況にいるのかも、麗さまには判っている。
…何をしたの?全身から汗が滲み出し、鼓動が早まってきてる。
「本当に嘘が下手くそだね、未結は。そこが可愛いんだけど。…いいよ、教えてあげるね。有建の何処かをちょっといじったの」
「いじった…、って…何…」
「手首、まだ痛そうだね」
───ばれていた。質問への答えもない。しかし彼は口調も表情も、食事に夢中なところも、普段と何ら変わらない。
だからこそ余計に──怖かった。
そう、今わたしを支配しているのは恐怖だ。
麗さまが何を考えているかわからないから。
違う。ひとつだけハッキリとわかっている。
『彼』は彼の気に障り過ぎたのだ。
わたしは何て間抜けなのだろうか。
普段の優しさと愛情にほだされて
また失念してしまっていたんだ。
彼の本質。気に障るものに容赦はしない。
彼は流星さまよりも強引で遥かに冷酷で
流星さまよりずっと『怖い人』なんだと。