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BeLoved.
第36章 【暴走】

『あなたはいらない』わたしは言っていない。

だけど証明ができない。いくら否定したって、彼がわたしを信じるかなんてわからない。
彼の基準はあくまでも彼なのだから。

どうすればいいのか…そして…
わたしはこれから何をされるのか。

彼に手を引かれるまま、まるで処刑場に赴くような気分で廊下を歩く。辿り着いたのは──

「ここ…」
「入って」

何故か…流星さまの部屋。

─────

「脱いで」

室内に足を踏みいれた矢先、そう命じられた。振り返れば…閉ざされたドアに腕を組んで凭れ、こちらを見据える彼。

「……」

どんなに思うところはあれど、逆らうことはできない。違う、許されない。
震える手でエプロンの紐を解き、身に着けていた衣服を一枚一枚脱いでいった。けして温度だけのせいではない冷めた空気を肌に受けて。

電灯の元、晒け出されたわたしの全て。『彼』が残したおびただしい量の口付けの痕も…手首の拘束の痕も、もう隠してくれるものはない。

「…っ、あ…」

ゆっくりとした動作で、彼はこちらに歩み寄ってくる。怖い。だけど体は動かない。ああ、彼の右腕が動いた。…叩かれる?殴られる?覚悟したけれど、それらは杞憂に終わった。

彼はわたしの右腕を取っただけだった。それも、手首の傷痕に触れないように気を付けてくれながら、そっと。 慈しみすら感じ取れるその手に、緊張が僅かに解れかけた──矢先。

「…これは、未結が望んだの?」
「え…?」
「縛って、って」

突き刺さる声。頭のなかに、いつかの彼の言葉が甦る。─傷つけないでね─わたしの体は彼のものでもある。忘れてない。忘れたことなんてない。

この痕は故意じゃない。まして望んだものでもない。それを伝えたいのに言葉が出ない。唯一できたことは首を横に振ることだけだった。

「…ふーん…」

感情の籠らない声。…信じてくれただろうか。わからない。…怖い。…ああ、それでも早く言わなくちゃ。もっと大事で、彼が確かめたいこと。信じてもらえないなら信じてもらえるまで伝えなきゃ。『あなたはいらない』そんなことあるわけがないと。

「…!」

取られた腕が強い力で引かれた。次の瞬間にはわたしはぬくもりと甘い香りに…彼の胸元に包まれていた。そして──

「れ…!」

わたしは『彼』のベッドに押し倒されていた。
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