この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
BeLoved.
第37章 【暴走の果て】
「……」
見慣れたはずのそのドアは、今のわたしには何より重く固く、開くのに勇気が必要だった。
─────────
『本当に大丈夫なの?未結ちゃん』
今から約三時間前。
掛けた電話の相手は羅々さまだった。
今日は平日だから当然お仕事中。昼の休憩時間を見計らって掛けた電話は、三回目の発信でようやく繋がった。
『帰る』それを告げたとき。 難色を示され、早過ぎないかと引き留められた。
しかし、午後一に難しい処置の患者さんを控えていて時間がなかったこと、何よりわたしが頑なに折れなかったことで、最終的には許してくれた。
『ただし、病院には必ず行きなさい。完治してるかちゃんと診てもらってね』
「はい」
『荷物はそのままでいいわよ。また来たときに使えるでしょ』
「……」
坊や達とケンカしたらいつでもいらっしゃい。
電話越しに届いたやさしい笑声に涙が滲んだ。
『ごめんね、今日はちょっと一緒に行けなくて…麗に同行させるわ』
「だ、大丈夫です!わたし、一人で…」
『そう?…じゃ未結ちゃんが戻るとは伝えておくわね。くれぐれもお大事にね』
羅々さまは最後まで気遣ってくれた。そのうえ『お世話になりました、ありがとう』とまで言ってくれて。
時間が押し迫っているのだろう、こちらが言葉を返す前に慌ただしく通話は切れてしまった。
このご恩は忘れません。決意を新たにし、羅々さまのおうちを後にしたのだった。
─────────
──そして、今。わたしは『ここ』にいる。
日にちにしてみれば一週間も経っていない。だけど、『ここ』で暮らすようになってからこんなに離れたことはなかったから。──無論、『彼ら』からも。
地下の駐車場を覗いたら──車があった。二台。
彼らは、居るのだ。この部屋の中に。
今日は平日。いくらもう夕刻とはいえ普段なら彼らは活動している頃。…だから尚更入りづらいというのもあった。迎え『入れる』のと『入れられる』のでは全然違うから。だけど。
「……」
──本当にいいの?この期に及んで、まだ気持ちは揺れていた。
だけど今『ここ』にいることこそが、わたしの『本心』だ。
いつまでも突っ立ったままではいられない。
見慣れたはずなのに、今のわたしには何よりも重く固い
そのドアを。自分の手で開いた。
「ただいま……戻りました…」