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BeLoved.
第37章 【暴走の果て】
中の空気は冷えきっていた。
廊下の電灯は点いておらず薄暗かったから、余計そう感じたのかもしれない。
「……」
足を踏み入れてみる。…静かだ。
人の気配がしない。…誰もいない?
通り過ぎがてら覗いたトイレや洗面所は…綺麗そのもので。……正直、拍子抜けした。
もっと荒れているものと思っていたから。
彼らが自分達で片付けていたのかな。
それとも──……他の誰かが来てた?
胸の奥を突く痛みに眉間を寄せた時だった。
「あ"ぁ?!麗お前それ反則じゃね?!」
「!」
廊下の突き当たり。磨りガラス越しに仄かな明かりが漏れているリビングドアの向こうから。
「流星うるせぇ。間が悪りぃんだよ」
「…」
聞き慣れたふたつの声が耳に飛び込んできた。…やっぱり居たんだ。…何してるのかな。
リビングドアのすぐ脇、台所へ続くドアからそっと中に入り、物陰から様子を伺った(今思えば普通に入ってもよかったけど、この時は何故かこうしてた)。
彼らはこちらに背を向けソファに腰かけて、テレビに見入っている。映し出されているのは…ゲーム画面のようだ。キャラクター同士が殴り合っている。
「お前コントローラー改造してんだろ、麗」
「な訳ねぇだろテメーが下手なの。ハイKO」
「あ“ぁ?!ずりー!今のはナシだろナシ!」
「……」
そこにいたのはさしずめ二人の『男の子』。
すごく、すごーく、楽しそうに遊んでいる。
あの日の険悪さは何処に?…それにしても…
なんだ。わたしがいなくても全然平気なんだ…
さぞかし…と思っていた台所すらも、ゴミ一つなかった。多忙な彼らが自分達で…とは考えられないから、きっと別の誰かが──…
いよいよ陰鬱になりかけた時だった。
「…流星お前、何処に居た?」
ふいに雰囲気が変わった。
「俺ー?会社そばのビジホ。未結いねーならココ来る理由ねーもん。寒くて眠れなかったわ」
「だよな。俺も部屋帰ったけど眠れなかった。腹へって」
「羅々姉の電話で午後の予定全部キャンセルからの速攻帰宅コース。秘書涙目だったわ」
「フォローしとけよ」
…。彼らはここに居なかったらしい。
家の中も彼らや…彼らじゃない誰かが綺麗にしていたんじゃなく、わたしが出ていったあの日のままだったんだ。
不在の理由は『わたしが居ない』から。そして
今居る理由は『わたしが戻る』からだったのか…