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BeLoved.
第38章 【罪と罰。1】
「寝てみる?」
バスルームを後にして。解きかけの荷物を広げたままのリビングに戻ろうと、ベッドルームに差し掛かったときだった。ふいに前を歩く彼が足を止めた。
指差された先には、さっきチラリと視界に入っていたクイーン?キング?…よく分からないんだけど、部屋の中央に堂々と鎮座するかなり大きなサイズのベッド。
純白で統一された寝具と皺ひとつ無くピンと張られたシーツが、何とも言えない緊張を誘う。だけど、端から見ても寝心地が良さそうで。…それに。
「…はいっ」
思い浮かんだのは、いつか絵本で読んだ『お姫様』が眠るそれ。緊張の影でしっかり芽生えていた高揚感に素直に従った──ら。
「未結おまえ、チョロ過ぎ」
「……」
…覆い被さられてしまった。
背中に広がる柔らかな硬さが、彼の重みで微かに軋む。
「…煙草吸いたい」
「んっ……」
その大義名分を振りかざされれば、逆らうことなんてできない。されるがまま唇を塞がれた。
「……」
大きな手が頭に添えられ、長い指が髪に絡む。…こんな風に触れられたのはいつぶりだろう?心臓の鼓動が少しずつ早まっていく。
「ふ…ぅ…っ?」
唇を離れた彼のそれは、額、目尻、頬と、あらゆる箇所を啄みながら移動していく。慈しむような優しさで…言ってしまえば、彼らしくなく、ゆっくりと。
「…ん!」
ぴくん、と上体が跳ねる。口付けが首筋に移動したのだ。直後、彼の動きが止まった。耳に届いたのは──自嘲するような声。
「…はは、何もねーな」
「…?」
「俺が残したやつ」
「あ…」
『残したやつ』…彼がわたしに刻み着けた所有の証。首筋にもあったはずのそれは綺麗に消えてしまっていた。ここだけじゃなく、服の下にあったものも、今はもう、ない。離れていた時間の長さを、お互い改めて感じた瞬間だった。
「こっちも」
「…っ…あ」
そっと取られたのは…右手。手首に刻まれた緊縛の痕さえも、もう、消え失せている。何事もなかったかのように。
「…未結」
「…、」
それでも、無かったことには出来ないと。痕があった箇所にも唇を寄せ彼は言った。「ごめん」と。そして、彼は──流星は問いた。
その鋭くて、真っ黒な三白眼の瞳に…僅かに、不安の色を滲ませて。
「まだ俺のそばに居られる?」