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BeLoved.
第39章 【罪と罰。2】
…妹。その言葉は頭を殴られたような衝撃を与えてくれた。
「さすが麗くんの兄妹ねー。可愛いわー」
千衿さんはわたしからさっさと目を逸らすと、ベッド脇のテーブルに花を置いた。
小さなカゴに生けられた、可愛らしいベビーピンクやレモンイエローのガーベラ。
何というか…華やかさのなかにも可愛らしさがあって、まるで彼女自身のようだ。…それに、『何でもできる大人の女性』。
そんな雰囲気を彼女は持っている。…わたしには無いものだ。
「未結、おいで」
「っ!」
ふいに耳に入った、慣れた呼びつけ。声のした方を向くと、いつの間にか上体を起こしていた麗さまが、点滴がされていない方の手で手招きしていた。
「は…はいっ… あ…」
慌てて駆け寄ると、そのまま腰に手を回されて胸元に抱き寄せられた。鼻をくすぐるのはいつもの甘い香りじゃなく…消毒液の香り。でも彼の体は温かくて…心地よかった。
「…麗くん?」
千衿さんの怪訝そうな声。
「妹じゃない。大事な子」
それを討ち返したのはいつもと変わらぬ…いや、いつも以上にはっきりとした彼の言葉。
息が止まった。
第三者に対してそんな風に言われたのは、初めてだったから。
視線をこっそり上向かせると、彼はまっすぐ千衿さんを見据えていた。
「……そう。…あ、そうだ!あのね、見て欲しいものがあるの」
少しの間のあと、千衿さんは困ったような笑みを浮かべた。しかしすぐに、何事もなかったかのように、床に置いていた鞄を取り上げ中を探りだした。
…何とも思われてない…のかな。
冗談と思われたのかも。
再び複雑な心境に陥るわたしの頭上で、何枚かのチラシが手渡されていく。
「これね、新商品なの。今の麗くんのプランと比較すると月プラス600円ちょいなんだけど…乗り換えない?」
「見せて」
受け取った麗さまがその内容を読みふけっている。どうやらパンフレットみたい。覗き見ると、『保障』や『終身』の文字が見て取れた。もしかして…
「…保険…ですか?」
「あたり。この人保険屋なの」
「そ。えーと…未結、ちゃんは……あ、ごめんなさい」
バッグの中から震動するスマホを取り出し、その画面を一瞥した後。千衿さんは断りを入れて病室から出ていったのだった。