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BeLoved.
第39章 【罪と罰。2】
「麗くん、優しいでしょ」
二人きりのエレベーターのなか。操作盤の前に立つ千衿さんは、わたしの方を向くことなく尋ねてきた。
「はいっ…、とっても!」
「でも時々怖いでしょ?」
「…はい、とっても……」
同じ言葉を口にしているのに、明るさは全く正反対。
千衿さんは、あなたって面白いのね、とこちらに笑顔を見せてくれた。
非の打ちどころのない、綺麗な笑顔だ。…でも今は少し怖く感じてしまうのは何故だろう…
「彼、いつも以上にキツくなかった?」
その問いに、先の流星さまとのやり取りが蘇る。
「あ…、確かに…」
「だと思った。前もそうだったの。不安定な証拠なのよ。彼なりの甘え方なの」
「…でもわたしには優しいです…」
何でこんな言葉が出てきたのか。後になって考えてもわからない。千衿さんから笑顔が消えた。再び操作盤の方に向き直った彼女は、静かな声で話し始めた。
「…そっか。あなた達、付き合ってどの位?」
「…。お付き合い……は…」
「あたしね、彼と二年付き合ってた」
──やっぱり。ある程度予想していたとは言え、その事実は胸の真ん中を貫いた。彼女は続ける。
「その頃の麗くん、すごく忙しくて全然会えなくてね。でも好きだったから頑張れたの」
「…それならどうして…」
「『お前とはもう無理』だって。…あんなに『好きだよ』って、言ってくれてたのにな…」
「……」
「要らなくなったらそれまでなのよね」
そういう男だから。と彼女は締めた。反論するよりも先に、エレベーターは一階に辿り着いて。彼女に続き降りようとしたけれど…
「ああ、ここでいいから。早く戻ってあげて」
彼が待っているはずだから、と制止された。
こんなに綺麗で、こんなに優しい人。
なにより、麗さまが、好きだった人。
複雑な気持ちに陥った。
「あ…ありがとうございました…すみません、お構いもせず…」
「いいえ。じゃ、麗くんのこと宜しくね。彼まだ、猫被ってるから。──"あなた"には」
「!」
「ごきげんよう」
扉が閉まる寸前。隙間から見えたのは、勝ち誇ったような彼女の笑み。
『あんたの知らない麗をあたしは知ってる』
瞳はそう言っていた。
固く閉ざされた扉を呆然と見つめ、わたしは…ただ立ち尽くすしかできなかった。