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BeLoved.
第39章 【罪と罰。2】
「遅かったね。何してたの」
「…すみません」
病室に戻ったわたしを迎え入れたのは、お叱りの声。どうしてもまっすぐ戻れる気になれなくて。今まで病室前の廊下の窓から、外を眺めていたのだ。
そこからは病院の駐車場が見下ろせた。何の悪戯だろう、千衿さんの姿を見つけてしまった。
彼女はピカピカに磨き上げられた真っ赤な高級車に颯爽と乗り込んだ。そして狭さなどもろともせず軽やかに発車させると、駐車場を後にしたのだ。
たったそれだけなのに、とても格好良かった。
あんな車に乗れるということは、お仕事でも成功しているんだろう。彼女は華やかで自信に満ちた『大人の女』だ。
本来なら彼の隣にはあんな人が相応しいんだ。…とてもわたし如きが太刀打ちできる相手じゃない。気晴らしのはずが逆効果になってしまった。
「ちょっと…迷っちゃって」
陰鬱な表情をするわけにいかない。精一杯の作り笑顔を向け、ソファに腰を下ろすと途中だった荷物の整理を再開した。
「嘘つかないの」
「……」
「暗い顔してる」
見抜かれていた。ふと見ると麗さまは疑うような眼差しをこちらに向けている。
「それは…心配だからですよ」
「千衿に何か言われた?」
「…。…なんにも…っ?」
「…そう?あ、それ捨てといて」
それ。彼が指している先には、千衿さんが持ってきてくれたブリザーブドフラワーがあった。生花じゃないからずっと楽しめるはずなのに。
「どうしてですか…?」
「目障りだから」
冷酷な一言。
「…いいんですか?せっかく千衿さんが…」
「うん。なんで?」
あっさり切ることができる。
要らなくなったらそれまで。
彼はそういう男。
千衿さんの言葉が思い起こされる。
『あんなに好きって言ってくれたのに』
あんなに素敵な女性ですら、彼は捨てた。
だったら
何の取り柄もないわたしなんて、きっと…
「…未結、ちょっと来て」
「…でも…」
「未結ちゃん」
素直にならないわたしに痺れを切らしたか。彼は鋭い眼差しと共に命じた。「来て」と。
そうされれば、従うしかない。
ベッドの縁に腰掛け、導かれるままその腕の中に身を寄せた。