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BeLoved.
第40章 【『彼』の居ぬ間に。】
「言ったろ?満足するまで、って」
──さて。既に外は真っ暗になったにも関わらず、わたしと彼の姿は未だにベッドの中だ。
「だからってぇ…」
涼しい顔で頭を撫でてくる彼を、恨めしく見上げるしかできない。なぜなら腰から下…というか、全身に力が入らず、起き上がれないから。
「未結が可愛いのが悪りーの」
「…なんですかそれ…」
頭のてっぺんにキスを落としつつの物言い。…あれから3回も果てたとは思えない程、彼には疲れの色が見えない。寧ろ、より上機嫌かな…
ついさっきまでの激しさも…あの真っ直ぐな眼差しも嘘みたい(もちろん、嘘なんかじゃないけど)。
「さすがに腹へったな」
「っ、すぐ仕度しま…あ"っ」
ベッド脇に腰掛け、衣服を整えながらの呟き。慌てて起こそうとした上体は、虚しくシーツへと倒れ込んだ。やっぱり力が入らない。…どうしよう、これじゃご飯の仕度ができない…
駄目だめ、わたしは家政婦。頑張らなきゃ。
そう自分を奮い立たせ、無理くり起こそうとした身体を…優しい手はやんわりと押し返した。
「無理すんなよ、未結。寝てろ」
「でも…」
再びシーツに沈む身体。ありがたいけど…冷蔵庫はほぼ空だし、今の(というか元々)我が家にはインスタント食品もない。ご飯だけは炊いてあるけど…
「何もねーの?」
「あとは野菜とお肉があ…ぁ、卵はあるので」
「ちょ待って、カレーあんじゃん」
彼の指す先は部屋の入口。床に捨て置かれていた買い物袋から覗いていたのは。
病院からの帰り道、明日の『彼』の要望に応えるために買っておいたカレールーの箱だ。
「買い行くのも出前も面倒くせーし、俺が作ってやるよ」
「え"っ!!?」
なんですと?目が点になった。
わたしが知る限り、台所になんか立ったことない流星さまが?この人が??…不安しかない。
「心配ねーよ。小5ん時キャンプで作ったし」
…何年前のお話ですかそれは。
…やっぱり不安しかない…。
「ぃや、り…待っ、わ、わたしが作」
「夜またヤるんだから休んでろって」
もはや縋り付くような勢いの申し出はあっさり却下された。
「寝かす気ねーから」
…恐ろしい予告と一緒に。
『邪魔者がいない』それが彼の中でどれ程大きな意味を持つのか。
静かに閉じられたドアを、わたしはただ呆然と見つめるしかないのだった。