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BeLoved.
第41章 【密室の獣】
「上手いこと言うね」
今朝のやり取りを聞かせた、もう一人のご主人さまは。まるで感心したように呟いた。
「〰️〰麗さままで!」
てっきり「それはひどいね」って、一緒に怒ってくれると思ったのに。揃ってばかにされた気がして膨れてしまう。彼はそんなわたしを見て「ごめんごめん」と苦笑した。
「納得できちゃって」
「もう!」
「十年に一回くらい神がかり的なこと言うんだよね、流星」
だからつるむのやめられないんだよね、と彼にしては珍しい物言い。今日は待ちに待った退院日、やっぱり嬉しいのかな…
───────────
十日間滞在した部屋は、わたしが到着した頃には既に引き払われていて。麗さまと落ち合ったのは待合室だった。
手続きもとっくに済んでいて、壁に凭れスマホを操作していた彼はわたしを見付けると笑顔で手を取り病院を後にした。変な話、デートの待ち合わせをしてたみたいに。
着替えや細々した日用品。それなりにあったはずなのに、彼は手ぶらだ。不思議に思っていたら、最後の診察が終わった後の午前のうちに運び出したとのこと。更には、彼の愛車も駐車場に停められていた。知り合いに頼み、持ってきてもらったらしい…流石というか何というか。
促されるまま乗り込んだ車内は、慣れた香りで満たされていて。隣には、大好きな彼。ベルトは締めた?お腹はすいてない?と、相変わらず気遣ってくれて。顔が無意識に綻んだ。
今の麗さまは十日前のあの半死半生の姿が嘘みたい。血色もいいし、すっかり元通りだ。さすがに少し痩せてはしまったけど…すぐ回復するだろう。心の底から安堵した。
「まあ、ダメ人間とまでは言わないけど…確かに弱くはなったかな」
「えっ?」
「怖いものができちゃったから」
怖いもの…?この人が?目をぱちくりさせるわたしを、運転中の彼は横目で一瞥し、小さく苦笑し教えてくれた。
「未結を失くすこと」
「…!」
「すごく怖いよ」
今まで怖いものなんかなかったのに。
今はそれが怖くて怖くて仕方がない。
物怖じせず感情を伝えてくるのは彼も『彼』も一緒。まっすぐな言葉と思い。
そして、彼の左隣にいるわたしの目線の先は…彼の首の傷。薄らとはいえ痕がしっかり残ってる。まるで『あの時』のことを忘れさせまいとするかのように。
それらは胸の奥を、存分に締め付けてくれたのだった。