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BeLoved.
第41章 【密室の獣】
彼が運転する車に乗るとき、わたしは助手席。
そして右手は彼の左手と繋がれる。今もそう。重ねられた大きい手は、優しい力でわたしの手を握っていた。
久々の光景とそのぬくもりが嬉しくて。普段なら運転の邪魔にならないように繋いだままにしている手だけど…今は柔い力でふにふにと握り返してみたり、繋いだまま手の甲を指先でくすぐってみたりと遊んでみた。
すると、同じような反応が返ってきて。気に障ってしまったかと慌てて見上げたその表情に変化はなくて…彼も遊んでいることがわかった。
「……」
楽しいな。嬉しいな。こんな何気ないやりとりも、彼が存在していてこそだから。…何だか無性に幸せに感じてしまって。ふにゃりと表情を緩めた時だった。
「未結、覚えてるよね」
突然そう振られた。一瞬、何のことか分からずきょとんとしてしまう。
「退院した時の約束」
「あ…カレーですね!」
続けられた言葉にやっと頭が追い付いた。入院中は連日言われていた『退院したら絶対作ってね』あれだ。
お医者様から(渋々ながら)も許可は得たし、もちろん準備もしてきた。ご飯も一升炊いてきたし、帰ったらすぐに食べられます!満面の笑みで答えた…ら。
「違うよ、そっちじゃない」
「え?」
「未結のことも食べさせてね。って」
言ったよね?と。彼がこちらを向いた。赤信号で停車したのと…その視線で、わたしを射抜くため。…そしてそれは、案の定、果たされて。それを判っている彼は更に畳み掛けてきた。
「ごめん、家まで待てない」
「……」
「それにね」
繋いでいた手が解かれた。そしてそれはそのままわたしの頬を包み込む。優しく、暖かく──『捕まえる』。
「未結に流星の匂いがついてる」
今すぐ消したい。耳元に寄せられた唇からの囁きは、胸を貫いた。──ほら、『捕まった』。
決して恐怖からくるものではない身体の硬直と…震えを感じながら、彼を…ご主人さまを見つめる。そんなわたしに与えられたのは…優しいキスだった。
「セックスしよう?未結」
いつかの時と同じ言葉が奥に溶け込んでいく。
信号機が青に変わると同時に、車はおうちとは違う方向に走り出したのだった。