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BeLoved.
第45章 【彼女の根底にあるもの。】
入浴は大抵、その日の『彼』と一緒。二人で湯船に浸かって、他愛のない会話を交わしてる。わたしにとっては楽しい、癒しの時間だ。
「……」
もともと広い浴室と湯船が、一人だと余計広く感じて。
なんとなくいたたまれなくて、膝を抱えて縮こまった。
顔半分までお湯に沈み、ぶくぶくと泡を作って遊ぶ。
いつもならこんなことをしてれば、「何やってんだよ」って、大きな手が頭を撫でてくれるのにな。
いつもならこんな縮こまってたら、「おいで」って抱き寄せて、足を伸ばせるようにしてくれるのにな。
…『彼』とだと、もっとあったかいのにな。
もともと広い浴室と湯船が、一人だと余計広く感じて。
なんとなくいたたまれなくなって、早々に切り上げた。
お風呂はわたしにとっては、楽しい癒しの時間。
…今日は全然、楽しくも癒しでもなかった。
──────
濡れた髪を乾かし終えた頃には、時計は22時を回っていた。普段ならこの時間は、その日の『彼』と寝室……
「…もう寝ちゃおっ」
反芻しかけた記憶は頭を振って彼方に飛ばし、湯上がりとは別の意味で紅潮した頬を押さえながら。
廊下と玄関以外の照明を消して回り、その後自室へ向かった。本当は彼らの帰りを待って、「おかえりなさい」を言いたい。けど、『先に寝ていろ』と命じられている。
…そういえば、自分のベッドも久し振りだな。
部屋の明かりを消し、寝具の中に潜り込んだ。
…『彼』とだと、もっとあったかいのにな…
───────
「なー麗、なー」
「流星うるせぇ」
どれくらい経ったか。ドアの向こう、廊下から聞こえた声で目が覚めた。
おなじみのやり取り。…帰ってきた!お出迎えしなければという義務感より、単純に嬉しさで飛び起きた。
そのせいか視界はぼやけ足は重いけど、頑張る。早く「おかえりなさい」が言いたいし…「ただいま」が聞きたい。
ドアノブに手をかけた刹那、逸る気持ちは瞬殺された。
「俺もうこの生活ムリなんだけど」
──この暮らしを始めて、一年。どこに根拠があった?
『彼』が…『彼ら』のどちらかでも、いつそう言った?
「だよな。──じゃ、そろそろ終わりにするか」
『終わらせる』のが『わたし』だなんて。