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BeLoved.
第45章 【彼女の根底にあるもの。】
「うそ…」
誰もいない。
というか…彼らの姿以前に、廊下がなかった。
廊下がない。…なんか変だけど、そうとしか言えない。ドアの先が、なぜか畳敷きの和室になっていたから。
古くて狭くて…まるで、わたしが一年前までおばあちゃんと住んでいたアパートのような。…なんで??
──ああ、これ、夢だ。今自分が置かれている状況がようやく飲み込めた。夢なら、こんなありえない状況だってありえる。…さっきの『彼ら』だって、そうだ…。
やだ、こんな変な夢。早く起きよう。そしたら…うーん。あ、前からやってみたかった糠床を作ろう。
現実は真夜中かもしれないけど丁度いい。どうせ安眠できないだろうし、大きな音も出さないし、糠をかき混ぜていれば無心になれるだろうし…やっぱり待っていたい。彼らを。
だけど、いざ目覚めようとするとなかなか叶わないもので。躍起になっているうちに、少しずつ部屋の中の様子が鮮明になってきてしまった。
安っぽい電灯が吊り下がった天井。壁には子供のらくがきのような絵が描かれた画用紙が何枚も貼られ、床は足の踏み場もないほど散らかっている。服や本、おもちゃにぬいぐるみ、人形。──あぁ、そうそう。あの髪の長い女の子の人形、大好きだったんだ。
あれ…何言ってるんだろう。こんな部屋知らないのに。
そうこうしているうちに、部屋の様子が変わり始めた。だんだん赤く染まって…これ、夕暮れ?
よくできてるなぁ…自分の夢ながら感心すら覚えた。そうそう、こんなに明るくて暖かい部屋が、ゆっくり暗くなって冷えていくの。それが怖くてたまらなくて
「!」
息が止まった。
わたしはこの部屋を知ってる。
服も本もぬいぐるみも人形も、全てわたしのもの。
散らかっているんじゃない、掻き集めてきたんだ。
そうすると、包まれているようで安心したから。
壁の絵はらくがきなんかじゃない。
一枚一枚、願いを込めて描いたんだ。
『はやく帰ってきますように』って。そして
『好きになってくれますように』って。
一枚一枚、願いを込めて描いたんだ。
『お母さん』の顔を。
古く狭いこの部屋は。
ずっとずっと昔、わたしがおばあちゃんと暮らすより前。…お母さんと、暮らしていた部屋だ。