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BeLoved.
第10章 【Master Bedroom. 2】
冷蔵庫からミネラルウォーター(水道水飲むならこれ飲め、と命じられているため)のボトルを取り出し、グラスに中身を注ぐ。
勢い任せに一気飲みし、空になったグラスをシンクに置こうとした瞬間だった。
「あ、 …!」
…手を滑らせてしまった。成す術なく落下しフローリングの床に叩きつけられたグラスは、音を立て砕け散った。
「〰〰やだ、もう…。ぃたっ!」
破片を拾おうと一歩前に踏み出した直後、右足の爪先に鋭い痛みが走った。ゆっくり上げて見ると…予想通り、踏みつけてしまったようだ。親指の先に血が滲んでいる。
「……」
自分の鈍臭さに溜息が出る。グラスを割ったばかりか、怪我まで。…とにかく早く片付けなくちゃ。彼らが踏んでしまったら大変だ。
足元にしゃがみこみ、とりあえず大きめの欠片を拾い集めようとした矢先。頭の上、入口の方から声がした。
「──未結?」
麗さまだ。
こちらに来ようとしているのだろう。視界の隅で足が動いたのを捉えた。
「っ、来ないで下さいっ、危ないですから」
下を向いたまま慌てて制止の声をかける。動きは止まったけれど、「何してるの」と怪しまれてしまった。わたしは破片を探しながら自嘲混じりに返す。
「グラス割っちゃって…」
片付けます。言い終わる前にわたしの体は宙に浮き、彼の腕の中へと収まった。未結ちゃん、との呼び掛けつきで。その呼び方の時は…そう。彼の気に障った時だ。眼鏡の奥の視線が刺さる。
「なに笑ってるの」
「…!」
「俺言ったよね、やめろって」
とても静かな…怒りを含んだ声。彼が言っていたのは、ここに住んでから加わった、わたしの癖。湯上りを裸足で過ごすことだ。
火照った足で触れるフローリングの冷たさが、何とも言えず心地良くて。麗さまには常々、やめようね、とやんわり注意されていた。危ないし、綺麗になったばかりの足を何でわざわざ汚すの。と。
(ちなみに流星さまは『いーんじゃねーの?』でおしまいだった)
「それで怪我されたら世話ないんだよ」
「…ご…ごめんなさい…」
指先の傷も見つかっていた。苛立ちをそのまま表す舌打ちが耳に入り、わたしは下を向いてただ謝り続けるしかなかった。
麗さまはわたしを抱いたまま、明かりも破片もそのままに台所を後にしたのだった。