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BeLoved.
第1章 【はじまりは、別れから】
いつものスーパーでの買い物を済ませ、食材が入った袋を力なく下げて、とぼとぼと帰り道を歩く。
頬をくすぐる柔らかな風に、空に舞い散る桜の花びら。
そう、気づけば既に四月を迎えていた。
おばあちゃんが亡くなって、もう一か月だ。
いつまでも感傷に浸っている場合じゃない。
何があっても時間だけは無情に過ぎていく。
わたしは生きていかなくてはならないのだ。
失業保険と立ち退き料。どちらも微々たるもの。
だけど堅実な祖母が掛けてくれていた生命保険金。
そして、わたしの名前で十年以上されていた預金。
おかげでささやかながらお葬式も出せた。当面の生活費にも困らない。だけど限りはある。
早く、働く場所を探さなきゃ。…でもこんな身寄りもない、学もない、どこの馬の骨とも知れないわたしを雇ってくれる所なんて、あるだろうか。
ああ、まずは住むところを探さなきゃ。
立ち退きの猶予まではあと幾日もない。
古びた木造二階建てアパートの一階。
道路からは一番遠い奥の部屋。
そこが、わたしの家だ。
朽ちかけて、薄暗くて、狭くて。
昨年末辺りからもう、わたしとおばあちゃんしか住んでいなかった。
それでも、小さい頃からの思い出が詰まった大切な場所。喪が明けるまでは居られるのが、せめてもの救いかな…。
ありがたいことに『うちにおいで』と言ってくれる人も、何人かいた。
でも迷惑はかけたくない。きっとズルズルと甘えてしまう。気持ちだけ受け取り、断った。
新たに部屋を借りるなら、保証人も必要だ。前の会社の人に頼めるかな…。
役所に相談してみる?あぁまずは職安に行くのが先か…やらなければならないことが多すぎて、気持ちがついていかない。考えだけが無駄に頭を巡る。
「、あ…?」
──そんな最中帰り着いた我が家で、見慣れないものが目に飛び込んだ。足取りも思考も中断する。
自宅のドアの前に、黒いスーツ姿の男の人が二人。こちらに背を向けて立っているのが見えた。
見覚えのあるその姿。 息を飲んだ。
「…うそ…」
後ろ姿でも分かった。『彼ら』だったのだ。