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BeLoved.
第1章 【はじまりは、別れから】
「やっぱ出ねーよ。気配もねーし、もう居ねーんじゃねーの?麗」
「…流星うるせぇ。調べついてるし、表札も忌中の貼り紙もあんだろ。よく見ろボンクラ」
内容までは聞き取れないけど、何やら話し込む彼らは背後の離れた位置にいるわたしの存在にはまだ気づいていない。
鼓動が否応なしに高まる。どうする?どうしよう。
迷ったけれど、このままでいるわけにもいかない。
ゆっくりと近づき、恐る恐る声をかけた。
「あ……あの…」
振り向いた彼らは、彼らの視界から遥か下にいるわたしを見下ろしたあと、顔を見合わせた。
「マジだ。居たわ」
「だろ」
「あの…お…、お久し振り…です。ご無沙汰…しています…。あの、その、その節は…」
つっかえながら何とか言葉を紡ぎ、頭を下げる。
その中身は疑問符でいっぱいだった。
なぜ彼らがここに?わたしは教えていない。
それよりもどうして、彼らが一緒にいるの??
偶然?まさかそんな。何がどうなってるの??
そのうち、嫌な想像が頭をよぎり始めた。
彼らはそれぞれ、気持ちを踏み躙ったわたしに危害を加えに来たのではないか。一度逃がして、油断させておいて。
…ああ、本当にそうかもしれない。
それだけのことをわたしはしてしまった。
どちらかの腕がゆっくりと動く、衣擦れの音がした。
…叩かれる!自業自得とはいえ、恐怖心に体は強張った。
……けれどわたしに与えられたものは。
「相変わらずちっせーなー、おまえ」
「……前より痩せたね。顔上げて」
お仕えしていたときと変わらない優しい声と
頭に乗せられた、大きくてあたたかな掌だった。
その懐かしい感覚に、体から、すっ…と力が抜けていくのがわかった。
言われるまま、ゆっくりと顔を上げる。
そこにあったのは、変わらないふたつの笑顔。恐怖心も猜疑心も、一瞬で飛んで行った。
一気に懐かしさと恋しさが募り、滲んだ涙で視界が滲む。
こぼれそうになるのを必死に堪え、心を奮い立たせた。
そんななか、気づいたこと。
彼らが着ていたのは普通のスーツじゃなく…
礼服だった。
「──久し振りだね、未結」