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第15章 【30cmの壁】

「……流星うるせぇぞコラ!静かにしろ!」

わたしが大騒ぎしたせいか、お部屋で寝ていたはずの麗さまが駆け付けてきた。
ドアを叩かれ…もとい。蹴られる音に、慌てて鍵を開ける。

「り……ああごめん、未結いたんだ」

いつもの眼鏡はなく、乱れた寝間着に髪はボサボサ。眉間にシワを寄せ、不機嫌オーラを全開にした麗さまががそこにいた。こ、こわい…今の今まで眠っていたんだ…

「…何してるの」

静かな声にも滲み出る、安眠を妨げられたことによる苛立ち。前髪の隙間から垣間見える、刺すような視線。それらはわたしを更に緊張させ、焦らせた。

「え、えと…あの…その、流星さまが…流星さまの…流星さまで…、わた、わたし、打って…そ、それで…その…」

説明も支離滅裂。『わたしの頭が流星さまの顎を直撃してしまった』たったそれだけのことがうまく言えない。

「…!おいボンクラ!!」

何かを察したのか、麗さまの表情が急にハッキリした。ドアの縁に手をかけわたしを押し退ける勢いで中を覗きこみ、声を荒らげる。

「テメー未結に手ぇ上げたのか!」
「れれっ麗さま!?っ…ちが…っ!」

不完全すぎる説明は最悪の誤解を招いてしまった。わたしの制止の声に構うことなく、麗さまは室内にずかずかと入り込むと、流星さまが横たわるベッドの縁を蹴り付けた。重いはずのベッドが衝撃で一瞬浮く。

「呑気に寝てんじゃねぇよ何とか言え!」

そこに再び響く怒号。次は流星さま本人を蹴りかねない。もはや飛び付く勢いで麗さまの背中に抱きつき、渾身の力を込めて引き留めた。

「だか…違うんです!りりっ流星さまは!今、痛くて、喋れないんです!」
「………痛い?」

麗さまは肩越しにわたしを見下ろす。剥き出しだった殺気が徐々に静まっていくのがわかった。

「たしが…わたしが原因なん…です」
「…未結の?……やっぱり未結、凄いね」

ちら、と流星さまに視線を向けた彼から、何故か感心するように言われてしまった。一体何が凄いのか…

抱きついたままだった腕は優しく解かれ、横並びにベッドの縁に腰かける。
しどろもどろになりつつも、とにかく経緯をもう一度ちゃんと説明していった。
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