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LaundryHeavenly.
第13章 Heavenly.13
「──全部、伺いました…」
二人きりになった室内は
一気に緊張に包まれた。
ブライトさんは息をつく。
「ならば話は早いな」
彼の優しく静かな声はよく通り
いつも以上に私に響いてしまう。
怖くて怖くて堪らなかった。
…嫌。嫌、いや!…いやだ!
『それ』を口にしないで。お願い。
──しかし私のその祈りは
神にも彼にも届かなかった。
彼はどこまでも冷静なその声で
私に『それ』を告げたのだった。
「お別れだ、レノ」
─────
「──本当にすまなかった」
結局振り回し傷つけただけだった、と。
ブライトさんは私に深々と頭を下げた。
最高位の身分である彼が、奴隷の私に。
普段の私なら恐れおののき、すぐに
懇願するだろう。『やめて下さい』と。
だが今の私には不可能だった。
体はまるで凍りついたように
指一本動かせなかったからだ。
従い尽くす事しか知らず生きて
全てを無くした私が得た居場所。
それが今失われようとしている。
『いつまでもここには居ないよ』
ハイジさんの言葉。その通りだ。
王室軍である彼らは王都に戻る。
部隊が解散となれば私は用無し。
一人きりであの悪夢に震えるのだ。
「……なるが、……」
『専属娼婦』を解かれた後の流れを
ブライトさんは話してくれている。
内容は一切頭に入ってなどこない。
声だけがただ耳をすり抜けていく。
「─!」
その時。本当にその時、初めて気がついた。
ブライトさんの背後の壁にある、小さな窓。
そこからお嬢様の墓石が見えたのだ。
…サラサお嬢様…
私があなたを亡くしてから
幾日が過ぎたのでしょうか
どんなに悪夢にうなされても
どんなに血にまみれた姿でも
あなたの笑顔も愛らしさも
私は忘れてなどおりません
だけどあなたはもういない
ぬくもりには触れられない
今見つけたぬくもりすらも
再び失われようとしている
そんなことを思っていた矢先だった。
「…っ?」
手を握られたのだ。
まるでお嬢様が私に触れたのかと
錯覚するようなあたたかさと強さ。
私を容易く壊せる力を持っている彼。
恐らくその半分も込められていない。
優しさとぬくもりだけが伝わるもの。
そして『部隊長』は静かに告げた。
「俺と一緒に来て欲しい。レノ」