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LaundryHeavenly.
第13章 Heavenly.13
『一緒に来て欲しい』
その言葉は私の頭の中にこだました。
何を言っているの?何を言われたの?
追い付かない。頭の中が白くなった。
「レノ」
呼び掛けで我に帰る。目の前には
変わらず真っ直ぐ私を見つめる彼。
深緑色の瞳は私だけを写している。
彼と初めて出会ったあの日と同じ。
低く甘く穏やかで、私を安心させてくれる
不思議な力を持った声もあの日と全く同じ。
それでも私の頭の中は理解が追い付かない。
一緒に行けるのは『専属娼婦』だから。
独りにならぬのは『専属娼婦』だから。
一緒に行けぬのは『専属娼婦』だから。
…独りになるのは『専属娼婦』だから。
それが当然と思っていた。だから私は
死刑宣告をされた気に陥っていたのだ。
『一緒に来て欲しい』
至極簡単なはずのその申し出は
これ以上ない程私を混乱させた。
ああ、そうだった。思い出した。
私が娼婦になりたいとねだったあの夜に
彼は『奉公先を斡旋する』と言ってくれた。
──そういう意味だ。腑に落ちた矢先
重ねられた手にそっと力が込められた。
驚き見つめ返した私に、彼は静かな声で
更に混乱させる言葉を口にしたのだった。
「離したくない」
部屋の窓を雨粒が叩いた。
最初2、3粒だったそれは瞬く間に数を増し
私の視界からお嬢様が眠る墓石を奪い隠す。
より一層彼に集中させられる事になった
私の意識の全てに彼の声は滲みていった。
──そういう意味だ。
学もなく勘が悪くても、私は女だ。
彼の真意に本能的に察しがついた。
「……」
同情だろうか。憐れみだろうか。
どちらにせよ勿体ないお気持ち。
ありがとうございます。
まずそれを伝えなければならないのに。
「考えさせ…て、下さい」
絞り出たのはそんな分不相応な言葉。
それでも彼は気分を害した様子なく
静かに「わかった」と頷いてくれた。
「…だがあまり時間がない」
部隊の解散は決定事項。明日には
王都に向け発たなければならない。
私が迷える時間は今夜しかないのだ。
「……」
薄暗くなっていく二人きりの小部屋。
ああ、もう夜の帳が降りる頃なのだ。
私に決断を急かす様に、雨音だけが
その強さを増していったのだった。