この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
LaundryHeavenly.
第13章 Heavenly.13
──はずだった。
私の力では及ばず、ただ彼の手を
はたいただけに留まったのだった。
それでも奴隷である私にそれは
『暴挙』以外の何者でもない。
蒼白させた顔面を床に擦り付け
只ひたすらに許しを請い続ける
『今までの私』ならそう。
『今の私』は──ちがう。
「…レノ」
殴られても殺されてもいい
只これだけは伝えたかった。
「ハイジさんにも、ナノさんにも…」
私は奴隷。従い尽くし生きてきた。
私は娼婦。寝台で起きた事は秘密。
ハイジさんのように弁は立たない
ナノさんのような学も教養もない
「わたし、にも…っ」
伝わる伝え方なんてわからない。
こんな言葉でしか発せられない。
『足りない部分は誰かが補う』
それを教えてくれたのはあなた
『慈しまれて触れられる幸せ』
それを教えてくれたのがあなた
『自分も私と同じ人間なんだ』
それを教えてくれたのもあなた
「支え、でした…っ…」
だからお願い、もう──
「傷つけないで…」
「……」
私を見つめていた彼がゆっくりと俯いた。
彼を傷つけていた彼の右手は
痛む頭を庇う時の様に額に当てられ
私から表情をさえぎり隠してしまう。
気に障っただろうか。怒らせたのか。
私の最期はここでなのかもしれない。
あまりにも出過ぎた真似をした事に
恐怖を通り越し達観すらし始めた時
…気がついた。彼の肩が震えていた。
ぽたり、ぽたり、と滴る身を知る雨は
彼が自ら傷つけ続けてきたその場所に
ひとつ、またひとつと染み込んでいく
彼のなかのすべてを、浄化するように。
「…ありがとう、レノ」
それを見た瞬間。それを聞いた瞬間。
私の心は決まった。
私はもうここにはいられない。
──否、いてはならないのだ。
私は彼から──…『彼ら』から、去ろう。