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LaundryHeavenly.
第13章 Heavenly.13

──はずだった。

私の力では及ばず、ただ彼の手を
はたいただけに留まったのだった。

それでも奴隷である私にそれは
『暴挙』以外の何者でもない。

蒼白させた顔面を床に擦り付け
只ひたすらに許しを請い続ける

『今までの私』ならそう。
『今の私』は──ちがう。

「…レノ」

殴られても殺されてもいい
只これだけは伝えたかった。

「ハイジさんにも、ナノさんにも…」

私は奴隷。従い尽くし生きてきた。
私は娼婦。寝台で起きた事は秘密。

ハイジさんのように弁は立たない
ナノさんのような学も教養もない

「わたし、にも…っ」

伝わる伝え方なんてわからない。
こんな言葉でしか発せられない。

『足りない部分は誰かが補う』
それを教えてくれたのはあなた

『慈しまれて触れられる幸せ』
それを教えてくれたのがあなた

『自分も私と同じ人間なんだ』
それを教えてくれたのもあなた

「支え、でした…っ…」

だからお願い、もう──

「傷つけないで…」
「……」

私を見つめていた彼がゆっくりと俯いた。

彼を傷つけていた彼の右手は
痛む頭を庇う時の様に額に当てられ
私から表情をさえぎり隠してしまう。

気に障っただろうか。怒らせたのか。
私の最期はここでなのかもしれない。

あまりにも出過ぎた真似をした事に
恐怖を通り越し達観すらし始めた時

…気がついた。彼の肩が震えていた。

ぽたり、ぽたり、と滴る身を知る雨は
彼が自ら傷つけ続けてきたその場所に
ひとつ、またひとつと染み込んでいく
彼のなかのすべてを、浄化するように。


「…ありがとう、レノ」

それを見た瞬間。それを聞いた瞬間。
私の心は決まった。

私はもうここにはいられない。
──否、いてはならないのだ。

私は彼から──…『彼ら』から、去ろう。
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