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LaundryHeavenly.
第15章 Heavenly.15
「──ゴキブリみたい」
ぽつりと漏らされた呟きの主は
ハイジさんだった。
「一度餌にありつけたらまた来て」
いつも明るく飄々としている彼らしからぬ
感情の籠らない、冷たく平坦な声。
「なかなか死なないしさぁ」
それに覚えがあった私は
ナノさん越しに覗き込む。
視線を向けた先の彼の表情に
普段の笑顔はない。光もない。
それは…そう。彼が自分のことを
話してくれた時の表情。
「──ハイジ?」
恐らくこんな彼を見たのは
初めてだったのだろう
ブライトさんは怪訝な声色だった。
でもハイジさんには届いていない。
彼の目線はあくまでも王子だ。
「──うわ、傷塞がりかけてるよ」
気持ち悪い。
王子の首元を一瞥し言い捨てた直後
彼は躊躇なく王子の左手小指の爪を剥いだ。
王子の全身が魚のようにビクリと跳ねる。
二人がかりで押さえ付けられていても
それがわかった。…そして呪術とやらが
果たされかけていたのも。
「…拷問する理由はないぞ」
「だから?」
「ハイジ!」
制止の声も届かず、ハイジさんは
薬指の爪も同様に剥がしてしまう。
相手の真実を暴き出すことに心血を注ぎ
自らの真実は一切見せず、気取らせない
それが謀略兵。それがハイジさん。
だけど今の彼は違う。
ハイジさんのなかで王子は
彼の忌み嫌う生き物と重なった
その生き物を忌み嫌うきっかけになった過去
それが甦りそれに囚われているように見えた
「いっそチンコ切り落とそっか?」
「いい加減にしろ!」
「…レノさん」
固まるしかできない私を誰かが呼んだ。
…ナノさんだった。
私を一度も名前で呼んだ事のない彼が。
「…少し離れます」
そう言うと彼は
ブライトさん達の方に歩み寄る。
私の知る限り上官二人のやり取りに
割って入ることはなかったナノさん。
3人の中で一番格下な筈のナノさん。
そんな彼はハイジさんの目の前にしゃがみ
あろうことか…頬に平手打ちを喰らわせた。
「なにやってるんですか」
"負の感情"は王子には力になる。必然的に
それを呼び起こす"空気"も王子は醸し出す。
『飲み込む』側であるあんたが
『飲み込まれる』とは何事かと。
「…ナノの言う通りだ。落ち着け、ハイジ」
「…まさかお前に目ぇ覚まさせられるとはね」
「誠意は伝わるんです。…貴方の教えですよ」