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LaundryHeavenly.
第2章 Heavenly.2
彼は声のした方に踵を返すと
背筋を正し敬礼をした。
「──ブライト隊長、報告します。彼女の意識が回復しました。ならびに頭部裂傷、経過良好です。後遺症等については、引き続き観察します」
「ああ。ご苦労だった、ナノ」
彼は『ナノ』という名前らしい。
『ブライト』という隊長がいるだろう方へ
歩いていってしまった。
ブライト。ナノ。どちらも聞き覚えのある名だった。
必死に記憶の糸を辿る。──あの夜の兵士さん達だ!
何とか体を起こそうとした私の目の前に、突然
綿帽子のようなふわふわしたものが広がった。
「眠り姫、ようやくお目覚め?」
それは髪の毛だった。明るい麦わら色。
その持ち主は寝台脇に腰掛け、
横たわる私の顔を遠慮なく
思いっきり覗き込んでいた。
何処か幼さの残る悪戯っ子のような表情。
おもちゃを見つけたかのような嬉々とした口調。
くりっとした瞳は焦げ茶色で、私が映っている。
…距離が近い…。
一見すると童顔で、可愛らしくすら感じる。
けれど、この人も兵士さんだ。
彼が身じろぐ度に、上半身に装備した防具が
音を立てていた。
…この人には見覚えがある。
ああ、確か、すごく大事な…
「ハイジ、慎め!ご婦人だぞ!」
「はーいはい。失礼いたしましたー、隊長殿」
カーテンの向こう側から、叱咤の声が響く。
全く意に介していないだろう口調で茶化しながら、
ハイジと呼ばれた彼は寝台から退いた。
そして頭を掻きながら、ナノさん達の元へと歩み出す。
───ハイジ。そうだ。この人は……
───お嬢様を見つけてくれた人だ!
「彼女、何か飲…って、ちょっと、君?!」
「さっ…じょ…っ、お…は、ど…っ、…っ!」
記憶が繋がった私の身体は、
それまでの重さなど嘘のように跳ね起きた。
伸ばした手でハイジさんの手首を掴む。
驚いて振り向いた彼の胸元に、
寝台からずり落ちる勢いで縋り付くと
声を荒らげた。
固く閉ざされていた喉に、それは酷。
張り裂けてしまいそうだった。
言葉だって途切れ途切れで、
聞き取れたものではない。
けれども私は延々と繰り返した。
「お嬢様はどこですか」と。