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LaundryHeavenly.
第3章 Heavenly.3
娼婦。
この人は何を言っているんだろうか。
時が止まったかのような沈黙が私たちを包んだ。
それを打ち破ったのは…彼。
「僕らは兵士でしょ?今はこんな呑気にしてるけど、本来戦うのが定めだからね。いつ命を落とすやもしれない」
だから所帯を持つにも勇気がいる、
だからうちはみんな独り者なんだ。と
ハイジさんは苦笑した。
「けど男だからね。溜まるものは溜まる。それこそ今までは玄人さんに頼んでたけど…娼館すらない、こんなド田舎じゃね」
その時、頭上からパラパラと音がした。
テントの帆布に何かが打ち付けている。
雨が降り始めたのだ。
「──45部隊ね、本当は10人居たんだよ」
「えっ?」
「1人は逃げた。2人はここに来る前に再起不能の重傷を負い退部した。そして4人は死んだ。呆気なかったよ」
ハイジさんは立ち上がると、開いたままだったテント入り口のカーテンを閉じた。
厚い帆布によって光は遮られ、中は一気に薄暗くなる。
「いくら明日をも知れない命だって覚悟しててもね。やっぱり怖くはなるんだよ」
彼はこちらに背を向けている。
だから表情は伺えない。
「僕らも兵士である前に人間だからさ」
──初対面の時から思っていた。
──この人は本当によく喋ると。
「ああ、次に死ぬのは自分かも。って思いはずっとつきまとう」
──相手を困らせてみては
──楽しんでるみたいだと。
「悲しいじゃない?せっかく生きてるのに」
──いつも茶化してばかりで
──嘘か本当かわからないと。
「─だから、レノちゃん」
でも、今は違う。
振り向いたハイジさんに笑顔はなかった。
童顔に似つかわしくないその鋭い眼差しは
命がけの修羅場を幾重もくぐり抜けてきた
『兵士』のもの。
『怖い』『悲しい』『兵士である前に人間』
彼が言った言葉は、きっと彼の……いや
『彼ら』の『本心』なのだろう。
「僕らに、"生きている悦び"を思い出させてくれないかな」