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LaundryHeavenly.
第6章 Heavenly.6
大きくて、骨張っていて、暖かくて。
彼の手には不思議な力があると思う。
よく見ると、細かい傷跡がいくつもあって。
『痛み』を知っているからこそ彼は優しく、
慈しむように触れてくれるのだろうか。
それはとても、心地よくて。
それまで魘されていたのが
嘘のように落ち着いていく。
「…大丈夫だ、レノ」
声だってそう。
低くて甘い声は私の中に入り込み、
体の内側から安息を与えてくれる。
そのうちに、私はいつしか
彼の腕の中で眠りに落ちる。
次に魘されて目覚めるまで。
それが『いつもどおり』の夜。
けれど今夜は違う。
私にとっても、彼にとっても。
今夜は『いつもどおり』なんかじゃない。
分かっているのに言葉が出てこない。
重苦しい沈黙が、私たちを包んだ。
「…すまなかったな」
それを破ったのは、ブライトさんだった。
彼が口にしたのは、数時間前に私の目の前で振るわれた暴力についての謝罪だった。
怖がらせてしまっただろうと。
「……いいえ…っ」
私は首を横に振った。
確かに、あの時の彼の、殺気だった雰囲気。
恐ろしかった。でも今はその気持ちを偽った。
ブライトさんは「そうか」とだけ返してくれた。
安堵したような、そんな声だったけれど、
「何処へ行って、何をしてきたのか」
私のその問いには答えてくれなかった。
ああ。それよりもっと、話さなければならないことがある。
お互いわかっているのだから、今度は私から切り出すのだ。
覚悟を決めた直後だった。
ふいに、私を包んでいたぬくもりが消えた。
抱かれていた腕が離されたのだ。
「──レノ、聞いてほしい」
もうすっかり暗闇に慣れていた私の目は、
私の真正面で、私をまっすぐ見つめる彼を
しっかり捉えていた。