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LaundryHeavenly.
第9章 Heavenly.9
「ハイジがまた何か吹き込んだようだしな」
その言葉で私はハッと顔を上げた。
「っ、お弔い…!」
私は感謝の言葉を述べた。
聖職者階級からの口利きのおかげで、私の両親は、奴隷の身分ながら旦那様達と並んで眠ることを許された。こんなに幸福なことはないと。
今朝ハイジさんが教えてくれなかったら、私はそんな大恩を知らずにやり過ごす所だったと。
「…全くあれはよく喋る」
それに対し、返ってきたのは呆れの言葉と深い溜め息だった。
彼はそのまま項垂れ、片手で額を押さえてしまう。
それを見た私は更に委縮した。何か気に障ることを言ってしまったのだろうか?
私のせいで、ハイジさんはまた制裁を受けはしないだろうか?
確かめなくちゃ。場合によっては謝罪もしなくちゃ。気ばかりが急いてしまい、言葉が全く出てこない。
「──だよ」
「…え?…あっ…?」
ぽつりと漏らされた呟きと、唐突に伸びてきた腕。…殴られるのかと反射的に目を閉じ身構えるが、それは無用の心配だった。
全身を一瞬だけ包んだぬくもりはすぐに離れ、直後に蠟の溶けるにおいが鼻をついた。
私の背後に置かれていた蝋燭が消されたのだ。
「同じなんだよ、レノ」
恐る恐る開いた瞼の先は暗闇。微かな息遣いだけが聞こえる。
恐怖じゃない。別の意味で心臓の鼓動が変化していくのを感じた。
「ほら」
「…あ…」
そっと、手を取られ。
導かれた先は…彼の胸元。
見えなくても分かる。ほのかにあたたくて、規則正しい鼓動が掌から伝わってきたから。…心なしかそれは少し早めで、まるで、私と…
「…ほら。お前と何が違う?」
「……!」
「変わらないだろう?何も」
静かな彼の声。それは私の深部を撃った。
私が本当に恐れていたのは、『行為』でも『彼』でもない。『彼の身分』だったのだ。
彼は王位に次ぐ高位、聖職者階級ブリーチ。
奴隷など近付くことすら許されない。
それは私の根底に刷り込まれている。
それでも今、彼は言ってくれた。
眠れない程の恐怖に苛まれる事もある。
逃げ出したい衝動に駆られる事もある。
一部隊を担う重圧に耐えられない事も。
自分も私と同じ、一人の人間なのだと。
「……ブライトさん」
ひとつだけ私と違うのは、彼の体。
鍛え上げられた硬さを持つそれは
紛れもない。『男』の体だった。