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LaundryHeavenly.
第9章 Heavenly.9
「…っ」
身動ぐ音が聞こえた直後。唇に温もりが広がった。
その正体は彼の唇。重なり合う熱と柔らかさ。
──そこまでは昨夜と同じ。
「……ん、…ふぁっ…」
──今夜は違う。私に心の準備をさせることなく、彼の舌は私の咥内に入り込んだ。
そしてそれは私の舌を易々と探り当て、味わうように絡み付く。
「んん……っ」
そのまま頭の後ろに手が添えられ、押し倒されていく。倒される、というよりもまるで…赤ちゃんを寝かせるかのような、ゆったりとした丁寧な動作だった。
その瞬間、一抹の恐怖が頭を過った。
ああ、いよいよその時が来たのだと。
ほんの一瞬だけ、全身がこわばった。
けれど、一度彼の口付けの甘さと心地よさを知ってしまった私はそこから抜け出せない。
囚われた舌が弱い力で啄むように吸われる。…これも、昨夜はなかったもの。こわばりが緩んでいく。
背中に敷布の柔らかな固さが広がった。
頭に添えられていた手は、そのまま私の顎から首筋をつたい、シミーズの肩紐に指をかける。
口付けに溺れる私は、無意識に肩を交互に浮かせ彼の指を手助けする動きを取っていた。
「!やっ…!」
素肌に空気が当たるのを感じた瞬間我に帰り、両腕で胸元を覆い隠し体を横向かせ、視線からも口付けからも逃れた。
彼の手も止まる。…私、何してるの?…いや、わかる。行為が怖いんじゃない。ついさっき私は、自分が思いもしない行動を取った。体が自然に動いた。彼を導くように。
彼に触れられたい。もっと、もっと。そんな思いが確実に芽生え始めていた。
そんなこと初めてだった。自分が自分でなくなるような感覚。それが怖かったんだ。
「…レノ」
「…あっ…」
覆い被さられた状態で囁かれる。
それは低くて甘くて。私の中に入り込んで
体の内側から安息を与えてくれる、彼の声
…そのはずだった。ほんの、さっきまでは。
「…逃げるな。触れたい」
今は興奮を圧し殺した、余裕のない声。
そこで気がついた。
『他言無用だよ』ハイジさんの言葉の真意。
『彼ら』は兵士である前に人間。
生きる為に自分を偽り、装う。
でもそれでは疲れ果て、壊れてしまう。
『同じなんだ』ブライトさんの言葉。
ああ……そうだ。
『娼婦』と過ごすその夜だけ『彼ら』は素の自分に…一人の男に戻れるのだ。
そしてそれは、私だけの、秘密。