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LaundryHeavenly.
第10章 Heavenly.10
「…膣外への射精が避妊にならないことくらい、知ってますよね?これ、殺精子薬です」
「!」
「三日に一度渡します。飲まなかったり、自殺目的で溜め込まれると困るので。必ず自分立ち会いのもとで服薬して下さい」
話の内容よりも、手渡された『薬』よりも。
私にとって衝撃的だったのは…
「あの…喋り方が…」
そこだった。彼は何故か敬語になっていた。
奴隷の私が貴族である彼に敬語を使われる。
意味も理由もわからず、戸惑ってしまった。
「…部隊への貢献度は貴女の方が高いので。気にしないで下さい」
「……」
変わらない淡々とした口調。
私もそれ以上何も言えなくなってしまった。
「っとにこのおぼっちゃまくんは!」
重くなりかけた空気を切り開く明るい声と、パシンという乾いた音。ハイジさんが笑いながら、ナノさんの後ろ頭を叩いたのだ。
「今渡さなくてもいーでしょ」
「…隊長から仰せつかってますから。読み書きの指導も、今日から始めるので。そのつもりでいて下さい」
衝撃で乱れてしまった髪を手櫛で簡単に直すと、ナノさんは食事を再開する。以後彼が口を開くことはなかった。
「やれやれ。うちの人たちみんなクソ真面目すぎて。ごめんね、レノちゃん」
「いえ……えっ?」
ハイジさんは謝罪の言葉を口にしつつ、頭を撫でてくれた。その手に力が込められていたことに気づいた時には、私と彼の距離は、米噛みが触れあうくらい接近していた。
「繊細な話はさ、これくらい内密にしなきゃ。ねっ?」
まるで子供が内緒話をする時みたく小声で、表情は楽しそうにはしゃいでいる。
どう返したらよいか分からず困惑したが、頭は押さえられたまま。逃げられない。
「…えっと…。…っ!ひゃ…っ」
昨夜の『仕事』のおかげか、私の体は普段より敏感になってしまっているようだった。
いきなり耳に吹き掛けられた息に、甘さを纏った声が漏れてしまった。
すぐそばにはナノさんがいるというのに。羞恥心で頬が染まった。
「ね、レノちゃん」
そのまま、彼らしからぬ低い声での呼び掛け。
次になされた、私の胸を撃つ囁きも、先の私の声も。ナノさんに聞こえていたかどうかは、その表情からはわからなかった。
「今夜は、僕だけのものになってね」