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LaundryHeavenly.
第10章 Heavenly.10
『その薬』は、ひどくまずかった。飴玉のようなものかと思い、口内に含んだそれを転がしているうちに表面が溶け、何と言うか…ドロリとした苦いものが溢れ出し、危うく吐き出すところだった。
「何してるんですか。味わわないで」
前言通り私の眼前で服用を見張っていたナノさんは、呆れた口調で言いながら水の入ったカップを渡してくれた。
「さっさと流し込んで下さい」
「……っ」
命じられるままなんとか飲み干したあとも、喉には強烈な不快感が残る。軽く咳き込んだ私を一瞥しながら、ナノさんは冷たく言い放った。
「体質によって悪心、或いは腹痛など副作用が起きるかもしれないので。様子を見て下さい」
「…わ、かり…ました…っ」
何とか声を絞り出し、返事をする。
次に飲むときは、口に含んだらすぐ飲み込もう。そう思ったときだった。
「言っときますが、貴女の体調は我々には関係ないので。"仕事"はしてもらいます」
彼の言葉は、至極当たり前のものだ。
今までの私なら何も感じなかった筈。
でも今は違う。…傷ついている自分がいた。
驚いた。私は本当にどうしてしまったの?
優しくされ、気遣われ、慈しまれ。
いつの間にかそれに甘んじていた。
彼の言葉で痛感させられた。
私はどこまで愚かなのか…。
「…心得て、います」
そんな自分を払拭するように。
そんな自分を葬り去るように。
私はナノさんの瞳を見つめ返した。
「私は…娼婦です」
「…!」
──三人のなかで最年少の彼は、いつも伏し目がちで口数も少ない。無愛想で、笑顔も見たことがない。
そんな彼の瞳に、微かに驚きの色が差した。
彼は負傷した私を付きっ切りで看護してくれたり、さりげなく気遣ってくれる、優しい人。
違う。優しい人『だった』。今の彼は、私…『娼婦』を歓迎していない。寧ろ疎ましく思っている。この短時間でもそれは察し取れた。
でも…それでいいのだ。
現実を知らしめてくれる彼のような存在は、かえって有難かった。
私がこれ以上、おかしくならないで済むから…
「いい子だね」
そう発したのは。私とナノさんの様子を、少し離れた位置で眺めていたハイジさんだった。
「やっぱ賢いよ、レノちゃんは。きっと読み書きもすぐ覚える」
この場に似つかわしくないにこやかな表情と言葉。ナノさんは溜息を残し、私から離れた。