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LaundryHeavenly.
第11章 Heavenly.11
「寝ていいですか」

いざ迎えた『仕事』の時間。今夜の相手であるナノさんから唐突に切り出されたのは、そんな言葉だった。

「…え?」

どんな夜になるのか。
どんな彼が現れるか。

緊張していた私は肩透かしを喰らった気分になった。だがこの寝台での掟は『相手の望みには全て従う』こと。ならば、こういう状況も含まれているはずだ。

「…寝不足なので」

その言葉で気付かされる。私が来てからの夜は、三人のうち一人は娼婦、即ち私と過ごすことになった。残りの二人で従来の見張りを回すことになり、必然的に一人一人の睡眠時間は削られる。だからと言って日常に変化は起こせない。疲労は更に溜まるはずだ。

ブライトさんもハイジさんも、そんなことは一言も口にしなかった。私はまたナノさんに私の現実を教えられたのだ。少し考えればわかることだったのに。私は労いもせず、自分のことばかりで…

「…仕方ないんですけどね」

彼は呟くと、私が腰かける寝台の前を横切った。視線で追った彼の出で立ちは、寝間着のような柔らかな下衣に上半身はシャツ一枚と、先日の二人と同様の軽装。
一見すると華奢にも見えたのは、無駄がなく引き締まっていたから。整った顔立ちでも、医療に従事する立場でも、彼も戦地で生き抜く兵士なのだ。

「あ…っ、つ、使って下さい!」

離れた位置の壁際に腰を下ろし、腕を組んで胡座をかいた彼。…眠りに入るつもりだ。私は慌て寝台から飛び降りそう促したけれど…

「結構です」

返されたのは短く冷たい断りだった。だがその後、もし具合が悪くなれば起こしてくれと付け足し、彼は静かな寝息を立て始めたのだった。

─────

「わ…たしの、な…まえは、レノ、です…」

蝋燭の仄かな明かりの下、私は紙に向かっていた。手持ち無沙汰となったこの時間、読み書きの復習をすることにしたのだ。背後で眠っている彼を起こしてしまわぬよう気を付けながら、日中教わった文字を一つ一つゆっくりと書き記していく。

「あってる…」

お手本と比べる。二枚の紙には全く同じ文字が並んでいた。完成度は雲泥の差だけれど…。それでも空で正しく書けた嬉しさに顔が綻んだ…直後だった。突然全身が地に叩き付けられた。


「あぁ…戻ってきてくれたんだ…」

仰向けに倒された私に覆い被さる影。
それは…一人しかいない。

「会いたかった…姉さん」
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