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LaundryHeavenly.
第11章 Heavenly.11
訓練を受けた兵士ならいざ知らず、私は奴隷だった身。受け身などとれる筈もなく、後頭部を強か打ち付けてしまった。
衝撃と痛みで頭の中が揺れ、視界が霞む。呼吸もままならない。そんな事などお構いなしに、彼は私の顔を両手で掴んで自分と向かい合わせる形で固定した。
身動きがとれない状況。何をされるのか。
恐怖を感じるより先にぬくもりが広がった。
唇が重ねられたのだ。
「……、」
「…!?」
──『姉さん』
口付ける直前、彼はまたしてもそう呟いた。
…誰かと間違えている?…姉さん?
…お姉さんと間違えているの…?!
でも彼がしているのは…唇への口付け。
姉とならこんな状況になる訳がない…
「んッ……!」
固い親指が口を無理矢理こじ開ける。慈しみも優しさもない、強い力。差し込まれた熱い舌は、更に無遠慮に私の咥内を蹂躙していった。
「ふ…んぅっ…!」
ぴちゃぴちゃと、あられもない音が響き渡る。彼の舌は生物の様に這い回って歯列をなぞり、滲み出る唾液を余すことなく絡め取っていく。
息継ぎの隙を与えてくれない、ただただ貪る口付け。それは普段の彼とは真逆の、獣のような激しさだった。そしてそれは突然中断する。
「…こわがらな…で…」
消え入るようなか細い声が耳に届き、
すがりつくような弱い手が頬を包む。
先の強引さが嘘のように。
「…ね…?兄さんはもう…こないから…」
「……!」
「…安心して…姉さん」
私は丈夫なことだけが取り柄だと思っていた。
しかしそれ以上に適応力が備わっていたのだ。
打ち付けた箇所の痛みは既に引き、視界も元に戻っていた。蝋燭の炎に照らし出された彼の…今にも泣き出しそうな、不安そうな表情も、はっきり分かる。
群青色の瞳に映るのは、確かに私だ。
でも彼は私ではない誰かを見ている。
「…ナノ…さん」
「!!」
正気を取り戻したらしい彼は瞬時に離れた。その背に向け私は馬鹿正直に尋ねてしまう。
「あの…お姉さん…て」
「…娼婦さん」
それは命取り。
振り向いた彼の目の色は変わっていた。
頭の奥に甦ったのはハイジさんの言葉。
『スイッチ入ると怖い』
気付いたときには手遅れだった。
私は彼の禁忌に触れてしまったのだ。
『危険感じたらすぐ逃げて』
私は逃げられない。
「…忘れてもらいます。覚悟して下さい」