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LaundryHeavenly.
第11章 Heavenly.11
「なんで!」
「ぅん"ッ」
顔面に打ち付けた凄まじい衝撃。
固く握られた拳での容赦ない殴打。
しかもそれは繰り返し襲ってきた。
悲痛な絶叫と共に。
「なんで?!どうして?!」
「ッ…!」
目から火花が散り頬は腫れ上がり
口の中には鉄の味が広がっていく。
これは紛うことない『暴力』だ。
だけど違う。これは『暴力』じゃない。
私は今の彼に既視感があった。
あれはいつかのお嬢様の姿だ。
『お勉強やだあ!レノとあそぶの!』
叫びながら私を何度も叩き
自分の気持ちを訴えてきた。
子供は加減も容赦も知らない。
ありったけの力で全てをぶつけてくる。
今の彼はまさにそれだった。
「ねえ!」
「……っ」
最後の殴打で私はまた倒れ込んだ。
腫れて熱を帯びた頬を地面に擦って。
視界は霞み、耳もよく聞こえない。
それでも意識ははっきりしていた。
彼と彼の姉のあいだに何があったか
私は知らない。だけど…
ひとつだけわかったのだ。
今の彼に私が出来ること。
瞼の腫れで視界は狭いが焦点は定まった。
傷から滲んだ血のおかげで猿轡は緩んだ。
声にならない悲鳴を上げ続け掠れた喉は
血の混じった唾液を流し込んで潤わせた。
──私は、娼婦。
この寝台での掟『相手の望みには全て従う』
彼の望みは──そう。たったひとつ。
「……」
私は無言のままなんとか体を起こした。
両手は拘束されたまま。……それ以上に
全身を苛む痛みで気絶しそうになるのを
堪えながら。
「……ね…」
そして、ゆっくりと声を発した。
嗚咽を漏らし続ける小さな彼に
語りかけるために。
「ごめんね……ナノ」
「っ!?」
鳩が豆鉄砲を喰らったような表情で
彼は私を見つめた。
普段の秀麗さからは想像がつかない
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔。
その群青色の瞳はまっすぐ私を見る。
そう
『私』の姿をした『姉』を見る。
…それでいい。
私が彼に出来ることはたったひとつ
『彼の姉になり彼を受け入れる』
…それだけなのだから。