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LaundryHeavenly.
第12章 Heavenly.12
「ブライトの足に傷あったでしょ」
ここらへん、とハイジさんは人差し指を
自分の腿の上で二、三度横切らせた。
「…傷…」
…確かに、あった。包帯が巻かれて
血の匂いをさせていた真新しい傷が。
『あの夜』に見た光景。
答えていいのだろうか。
私が口ごもっているうちに
沈黙を肯定としたのだろう
ハイジさんは話を進める。
「あれね、自分で切ってるの」
「…!」
ハイジさん曰くブライトは
もともと優秀な方じゃない。
周囲の期待はあまりにも強大で
全てに応えるために必死だった。
ここまでは、以前に私も聞いた。
今度はより深層を知る事となる。
努力しても力及ばず、失望されて。
逃げ出したくて、逃げられなくて。
どうしようもなくなった時自らを傷付け
やり場のない気持ちを鎮め落ち着かせる。
「どうしても内に内にいっちゃうからね、彼。昔からそう。弱くはないけど強くもないのさ」
「……」
いつも凛々しく毅然としていて
部隊内の精神的支柱である彼。
それは全て彼が努めて成り得た姿なのだ。
最高位の身分も部隊長の地位も名誉も
彼には自らを苦しめるものでしかない。
そんなものがあるからこそ
彼は彼でいることが叶わないのだ。
『同じなんだよ、レノ』
『おまえと何も変わらない』
娼婦になって迎えた初めての夜に
ブライトさんが発した言葉の真意。
『私』に安堵を与えるためでなく
『彼』は私に訴えかけていたのだ。
自分も一人の人間なのだと。
自分を一人の人間として見てくれと。
「……」
悩み傷つき苦悩した人間程優しいと聞いた。
彼の優しさは数えきれない苦悩と
涙の上に築かれたものだったのだ。
だから彼の側は居心地がよくて…
「──でも、それもおしまい」
ぱん…っ、と両手が打ち合う乾いた音。
私は我に帰った。いつのまにか
ハイジさんの雰囲気も声も軽くなっていた。
「もともと部隊長どころか兵士自体向いてないんだから。神父さんやってりゃいーんだよ。いい機会だ」
「機会…?」
疑問の表情を浮かべる私を一瞥し
先にこっちを話すべきだったねと
謝罪したハイジ…否、"謀略兵"は。
私が一番恐れていたことを口にした。
「45部隊ね、無くなるの」