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猫彼女。
第3章 cat.3

「…これだけじゃないの…」

ポカーンとしている俺を尻目に
えりさは右手で何かを手繰り寄せた。

その手の中にあったのは…これがまた、うん…。
どうみても、尻尾。
耳同様、白色のそれは…左右にゆらゆらと揺れていた。
すげー、どうやって動かしてるんだろう。

…ああ、そういうことか。
そこで俺には全てが読めた。

これはきっと、えりさが職場でやる演劇用の衣装なんだ。
確か以前もこんなことあった。あん時は桃太郎の猿だったっけ。
利用者さんに楽しんでもらいたい、って頑張って作ってたんだ。

今回もそうやって完成したやつを、真っ先に俺に見せたかったんだな。

「…えりさ、今度は猫娘?可愛いじゃん」

叩き起こされた怒りよりも呆れよりも、とにかく健気さが愛おし過ぎて、顔も綻びてしまう。

安堵から欠伸をかいたぐらいにして
頭を撫でてやろうとした手が猫耳に触れた瞬間。
反射的に引いた。

…生暖かかったんだ。


「ちがうってば!…シャワーから、上がって、体、拭いてたら…っ、なんか…突然こんななって…っ…訳…わからな…っ!」

叫ぶえりさ。取り乱しているし、目には……涙が浮かんでいる。
演技なんかじゃない。
俺が想像しているような状況でもなさそうだ。

指先に残る暖かさと…柔らかさは、
『それ』が作り物じゃないことを物語ってる。


え……何だこれ。

…マジ、なのか…?
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