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メンズミーティング
第17章 哀れなボンクラに慰めを。
「頼むわ」
「なんなんだよ…」
30分もしないうちに、野郎は本当にやってきた。
服も髪も呼吸も乱れさせて。
喘息持ちのくせに何やってんだ。しかも話す内容は電話とほぼ一緒、『葬儀に出てくれ』の一点張り。
「○区の××ホールで12時からだから」
「…だから無理だって言ってんだろ」
会ったこともない人間の、まして葬儀なんか出たくないに決まってる。何度も何度も繰り返す同じやりとり。
正直、俺もこいつも気は長い方じゃない。余程のことがない限り(いや、あっても)、自分の主張を曲げることもない。次第にお互い口調が荒くなり、最終的には「行け」「行かねぇ」の罵りあいになっていた。
「あ"〰〰埓明かねーな!わかった、じゃ今この瞬間からお前の24時間、一千万で俺に売れ!"仕事"にしてやるよ!それなら文句ねーだろ!!」
言い出したら聞かないのは昔から。しかし今回はどうも様子が違う。と思ったら、今度は打って変わり殊勝な態度になった。
「…お前にしか頼めねーんだよ、麗」
お願いします。そう言って、四半世紀超の腐れ縁の野郎──流星は深々と頭を下げた。
…礼服、何処に仕舞ってたかな…。
───────────
追い返されるわけだ。
話を聞けば、流星ん家の会社──と言うか、流星の父親がその幸とかいう子の家にやったことが酷すぎた(商売してれば仕方ない、とも思うけどね)。
しかしなんでまたよりによってそんな相手と恋仲になったのか。彼女もこんな若さで病に冒されるなんて。報われなさにため息が出た。
「……」
同い年だという彼女。遺影は可愛らしい笑顔だった。俺が知る限り、野郎が初めて受け入れた他人。…どんな子だったのかな。会ってみたかった。
斎場内でも一番小さな部屋。参列者も俺や流星くらいの年代の男女が数人しかいない。祭壇脇に力無く腰掛けているのが…恐らく、お母さんだろう。あんなデカい男に塩撒いて追い返すような人にはとても見えない。恨みの強さが伺えた。
葬儀終盤、お母さんから棺の中に花を供えてやって欲しいと呼び掛けがあった。
手にした百合の花を置こうとした瞬間、息を飲んだ。
死化粧は施されていたものの、遺影の可愛らしさは微塵もない。彼女が苦痛の果てに逝ったことをまざまざと物語る顔だったから。