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第9章 悪い癖
すみれはすっきりしたのか、絢音を見てご機嫌な様子だ。

「ふふっ、笑ってる、可愛いな~」

絢音は辰の事で百合子に嫉妬した。
でも腕に抱く小さな命は、果てしなく無垢に感じる。
この子にはなんの罪もない。

純粋に……愛おしく思った。



─────


すみれを預かる事になり、3人で暮らす生活が始まった。

絢音は本を見ながらすみれの世話をしたが、夜中に泣くのはほぼ毎日だった。
絢音はその度に起きてミルクを与えたり、オムツをかえたりした。
辰は手伝いはしなかったが、煩く泣いても文句を言う事はなかった。

すみれはまだ動く事は出来ないが、手を自分の顔の前に持ってきてじーっと見ていたりする。

「すみれちゃん、なに見てるの?」

絢音はすみれに話しかけた。

すみれは部屋の隅に置いてある籠の中で寝ている。
辰が赤ん坊用のベッドを買ってきたのだ。
というのも狙うのは金持ちだから、ただで……というわけはないだろう。
手数料なり、それまでの養育費なり、幾許かの金を出すに違いない……と踏んでいるからだ。
我が子かもしれないのに酷い話だが、辰は納得がいかなかった。
欲に溺れたのは認めるが、歯の浮くような台詞を吐いて百合子を騙した訳じゃない。
むしろ初めからハッキリと言っていた。
運悪く百合子が死んでしまった為、自分が赤ん坊を引き取る羽目になっただけで、子供が出来たからといって端から責任を背負うつもりはなかった。

「あー、うー」

すみれは絢音を見て、顔に向かって手を伸ばす。

「すみれちゃん、どうしたの?ふふっ」

絢音は小さな手をとって笑顔を見せる。

辰はそれを遠巻きに見ていたが、もし絢音を嫁にしたら、いつかこんな風景が拝めるんだろうか?と、ふとそんな事を考え……不謹慎だと思ってすぐに打ち消した。
すみれに対して父親として接する事は出来ないが、だからといって、人としての情けを捨てたわけではなかった。



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